ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧

E.T.ごっこ

「てぃーりーてれれれれーれー」 幼いころ、父は不思議な鼻歌を歌いながら、人差し指をわたしに向けました。わたしも人差し指をのばして、その先にゆっくり近づけます。曲が最も盛り上がるタイミングで指先をぴったり合わせると、完成。これが、父とわたしの…

わたしたちの友情は

「ひさしぶり〜」 なんとか仕事を終わらせて、急いで帰宅しオンラインミーティングサービスに接続すると、半年ぶりの顔ぶれ。いえ、まなの結婚式以来一同に会すことはなかったから、1年ぶりでしょうか。4人みんな、すでに画面に向かってひととおり近況報告を…

恋から愛になった

「いいんですか?」で出会ったRADWIMPS。中学生のときでした。テレビで放送されるようなメジャーソングしか聞いたことのなかったわたしには、衝撃でした。「あなたといる意味を探したら、明日を生きる答えになったよ」とか、「2秒前までの自殺志願者を君は永…

迷路、これ人生なり

「迷っていきますか?」 先輩が言います。言われた方は「はあ、」と訳がわからない顔をしていて、それにわたしは笑いました。 子ども向けイベントの仕事でした。わたしの担当は、段ボール迷路。前日に大人5人でひいひい言いながら設置しました。特に先輩がよ…

よくわからない飲み会

よくわからない飲み会があるでしょう。 なんでこのメンバーで集まっているんだろう、とか、何を話してもイマイチはまらない、みたいな、ただ目の前のお酒を流し込むしかない飲み会。毒にも薬にもならない飲み会。わたしはお酒が好きなので、よくわからない飲…

わたしの暮らしは

一人暮らしを始めたのは、今から9年前。大学進学とともに初めての一人暮らしで、母からは大変心配されました。なにせわたしは、実家に暮らしていたころ料理も洗濯も母に任せきりだったのです。母が仕事に行ってしまった土日の昼ごはんなんかは、残り物を冷蔵…

夜の一員

実家に帰ったとき、妹とスーパーに行きました。 彼女の仕事終わりを待って出かけたカラオケ。満足して帰るころには日付をまたいで、わたしは安いお酒で程よく酔っぱらっていました。ハンドルを握る妹に「お酒を買って帰ろう、スーパーに寄ろう」とせがみ、彼…

実家

わたしは、北海道の左上に暮らしています。就職を機にIターンして早5年ですが、出身は道南の観光街。すると、友だちやら親戚やらに会って必ず言われます。 「いつそこを出るの?」 なんと失礼な話だろうと思いながらも、でもやっぱり、へらへら笑って「いつ…

慈悲深い人間

「あたしにはね、幸せの限界があるの」 大好きな映画の登場人物が、泣いた後のような喉にかかる声で言ったのを覚えています。朝方の青白い光が差し込むベッドルーム、毒虫や毒魚が見守る水槽に囲まれて、彼女は細い腕を持ち上げました。幸せに溢れるこの世界…

朝7時

「あいちゃん!朝だよ!7時だよ!」 友だちの家で飲んで、迎えた朝。6時に起きると宣言してアラームセットしたくせに、彼女の声に目を覚ますと1時間の寝坊でした。彼女の家のソファは、ずいぶん寝心地が良かったようです。それとも、「いい加減に寝よう」と…

わたしの孤独に寄り添うのは

深夜。 仕事から帰るなり倒れ込むように眠ってしまったせいで、こんな時間に目が覚めました。窓の外はうっそりと暗く静かで、同じアパートの住人も皆寝ているようでした。そのまま朝を迎えても良かったのですが、なんだか胸の隅がすかすかして、スマホを手に…

強くなったり弱くなったりしながら

はじめてその歌に出会ったとき、夏の夜にふく風のようだと思いました。蒸し暑く肌にまとわりつく夜の気配、どこかからふく風は細く弱いけれど、それでも、動きにあわせて襟足を引くような不快感を連れ去るには十分でした。そんな夏の夜を思い出して、風が頬…

ホームラン

誰だってきっと輝いてる スポットライトだらけになってる それは今でも変わらないのに バンドが歌っていました。 過去には武道館ライブを成功させましたが解散、のちにバンド名を変えて再結成したバンド。彼らの名声は、解散する前のバンド名でしか通ってい…

感情の話

「適材適所ですから、今のお仕事を大切にされた方がよろしいですよ」 これは、わたしの感情の話だけれど。 一緒に仕事したこともない、1度お酒を飲んで1度会議の席をご一緒しただけのあなたが、わたしの適材をご存知なんですか?たかだか5年働いたという情報…