ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

賛成

「家を一歩でたらルールだらけ。私ルールって苦手。組織ってキライ。でも寂しいのはヤダ」 インスタグラムを流し見ていたら、エッセイマンガの女の子が言っていました。おそらくわたしと同じくらいか、少し上くらいを想定して描かれた彼女。半分わかって、半…

5年ぶりの夜

新しいことを始める前の日の夜というは、実に居心地が悪いものです。 明日に待ち受ける未知のばしょ、未知のこと、未知のひと。時計の針は無謀に進み、外はうっそりと暗く、わたしをひとりぼっちにします。うまくやれるだろうか、楽しくできるだろうか、考え…

ダイエット

良い記事を読みました。北海道新聞夕刊、お笑い芸人のバービーさんが書いていました。 バービーさんといえば、テレビで見かける自由なお笑い芸人というイメージ。最近、北海道の地元地域や女性の生き方についてあげる声が聞こえていました。でも、じっくりと…

お先に

「ほら、きょうは良いと思いますよ」 先輩が音もなくデスクの右側に立って言うものだから、眉根が寄りました。 良いと思いますよ? ミスでもしただろうか? ていうか、そろそろ帰ろうと思ったのに? 時計を見ると、定時をまわって少しほど。ぐるぐると考えな…

こでまり

「あいちゃんって、花とか木とか、植物の名前をよく知っているね」 嬉しくなりました。わたしが「なりたい大人」とは、「ふいに見かけた植物の名前を自然に口にできる人」です。 たとえば、道を歩いているとき。 目を奪われた花や、影をつくる木、どこかから…

きもちのいい人

「こんにちは」 綺麗な方だと思いました。マスクで顔半分は隠れているけれど、ゆるくウエーブのかかった明るい色の髪、朗らかな声と目元の皺が、優しい印象でした。 「初めまして、名刺をお渡しさせてください」 自己紹介をします。それから、仕事のはなし。…

霧のなか

「それじゃあ、また」 21時。遅すぎず、早すぎない時間。宵の口ではあるけれど、きょうはもう、おしまい。 不自然でなく手を触れていたでしょうか。 きちんと笑顔だったでしょうか。 確かめたくても、歩きだしてしまったが最後、うしろを振り返ることはでき…

勝ちに行く

「いまからこんな格好して、シーズン本番にはどうするの」 衣替え直後、いつも警鐘を鳴らします。 気候の変化を感じて、でもやっぱり面倒くさくて、まだいけるまだいけると騙し騙しするうちに、ついに耐えきれなくなって取り掛かる衣装箪笥の総入れ替え。た…

夏支度

肌に触れる布の感触が変わりました。 気温が20度を越す日が増え、いよいよ冬服ばかりではいられなくなり、衣替えをしたのです。外出できない週末、ここを逃すともうチャンスはありません。意を決して衣装箪笥を引くとあふれだすニットに、改めて、すっかり暖…

2021年、夏

平日、夜、仕事終わり。 会社を出ると、西の空が赤と橙と紫になっていました。ふうと息をついて運転席に座って、だらだらと携帯をいじっているうちにあたりはすっかり群青色。ものの10分ほどの道のり、さっさと帰ってしまえばいいのに、さっさと帰ってしまい…

マスターの映画

「子どものときに見たきりだけど、大好きな映画でさ」 マスターが、カウンターの向こうで言います。身体を斜めにして、右手にはタバコ、左手にはハイボール。顔は目の前の焼き台からのぼる煙でちょっぴりけむっていて、しゃがれた声だけがすっきりと耳に届き…

わたしが死んだのは

わたしが最初に死んだのは、16歳のときでした。大好きな小説家が処女作を執筆したのが16歳。神童と呼ばれデビューしました。当時、小説家になりたかったわたしは、彼が憧れの対象だったし人生の目標でした。デビューできなかったわたしは、16歳で死にました…

救い

「え!?マジで!?」 遠くで先輩の声がします。あわせて、上司の笑い声。わたしは平静を保つふりをして、手元の資料に目を落としました。しばらくすると、ドア1枚隔てた向こうで空気の動く気配がして、話し合いが終わったのだとわかります。先輩はこのあと…

言葉をもちあわせていないから

映画が好きです。ストーリーや映像、そこから生まれる独特の空気感。監督や俳優によっても違いがあって、それがピタリとはまった時に襲われる胸をえぐるような深い感動は何物にも変え難い経験です。 旅が好きです。自分で目的地を決め、自分の足で行き、そこ…

歳下バンドが増えた

いつでも、メディアで見かけるのは歳上の人でした。テレビで華々しくおしゃべりするあの人も、舞台で堂々と胸を張るその人も、ラジオの向こうの楽しそうな声も、みんな歳上。だから、期待と憧れをたっぷり含んで、ちょっぴりの羨望は、歳下のわたしには到底…