ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

嫌いな朝

5月。

薄曇りの朝はもうずいぶん暖かくて、春ジャケットを羽織りました。ベージュのショート丈、ゴールドのファスナーがアクセント。玄関をあけて、深呼吸。そして、眉をしかめました。

嫌いな朝のにおい。

 

学生のころ、体育の授業が嫌いでした。ひどい運動音痴で、徒競走は最低速グループの常連。体育が憂鬱で仕方ありませんでした。

春、新学期が始まると、体育は、待っていましたと屋外授業になります。手始めは基礎運動。マラソンとか陸上競技の授業です。クラス替えを経て、一緒に着替えをするひと、柔軟を組む相手に視線を巡らせて、もやをあげるグラウンドまでの道のりを踏みしめる、誰しもが居心地を手探りする空気。北海道の5月はあまりすっきりとしなくて、冬を忘れられない、梅雨に踏みきれない、それでも気温がじんわりとある日が続きます。わたしが生まれ育った太平洋側の地元は「霧のまち」の異名をとるほど1年中ぼんやりとした空に靄をあげていたので、それが殊更でした。霧がかった曇り空の午前中、妙にじっとりと張りつくTシャツで走る学校のグラウンドなんて、サイアクのひと言。

その、嫌いな朝のにおいがしました。

 

いま暮らしている北海道の左上は日本海に面していて、はげしい海風が雨も雪も気温も、もちろん湿度もさらっていきます。ついぞ嗅いでいなかった、春のにおい。どんよりと重たい雲、たしかな質量を感じさせる風、じっとりと張りつくブラウス、居心地の悪い新学期、お互いをうかがうような同級生の目、そわそわと手探りする話し声、嫌いな体育。

 

5月の朝。