ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

すがすがしいきもち

本を友だちに勧めていて、もう1度読み返したくなりページを開きました。

わたしは映画でも音楽でも本でも、監督とかアーティストとか作家とか、とにかく作者買いをするほうで、その癖をつけたのは小学生のとき、その作家さんに出会ってからでした。それまで児童書にカテゴライズされる本を読んでいたわたしが、ちょっと背伸びをしようと文庫本コーナーに行って、平積みの山から新刊としてポップが貼られていたその本の表紙に惹かれたことがきっかけでした。ちょっと奇天烈な出会いが日常を歪めて切ないラストに結ぶ作家さんの、平易で美しい文体と軽快なストーリーに心打たれました。片っ端から読んで、本棚に収めました。

 

すっかり前に読んだきり、本棚で背表紙をきらきらさせていた本。久しぶりに手にとって、表紙のさらりとした感触に、やはり本はハードカバーだと大変満足します。白の装丁に、中央縦書き、銀色でタイトルが印字されています。紐栞は端正な黒で、ちょうど最後に読んだときのページに挟まっていました。

高校生の少年少女が、三角、ならぬ四角関係を繰り広げる春から夏にかけての恋物語。そろそろとした熱情と、初夏の風のような爽やかさが見事に溶けあって、胸がぎゅうと締めつけられるのを感じました。その瑞々しさは、文章からも。スタッカートのように短く、句点を多用した文。長くないひと段落も、彼らの青春のテンポのようです。そして一文、

「すがすがしいきもち」

わたしだったら、「清々しい気持ち」と書くでしょう。平仮名は分かり良いけれど、連なると読みづらいものです。でも、この本の「すがすがしいきもち」は、平仮名の連続でなければならなかったのでした。髪をすく初夏の風、手を伸ばしても到底とどかない青空、隣を歩く彼女。それは、平仮名の、たどたどしく、どこまでも純粋な響きだから表現しうる「すがすがしいきもち」でした。

 

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