ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

悪夢の間を彷徨って

雨が降っていました。

午前中から空をおおった重たい雲は、雨粒を蓄えて濃く大きくなっています。窓を開けてみるけれど風向きか湿度の高さか、期待したほどの涼しさはありません。うちわをパタパタやりながら事務机に向かい、うまく働かない頭を一生懸命に動かして、パソコンを睨んでいると。すっかり陽が沈んで街灯が照らすころ、ふう、と風がかわりました。

熱をはらんでベタベタした風から、冷たくさらりと頬を撫でる風に。雨が来る、と思って半刻もしないうちに、まちはすっかり濡れてしまいました。静かに降る雨に気づいた時には、てらてらと濡れた道路に街灯が反射して、帰り道を憂いました。

 

仕事を終えて帰宅してもなお、降り続く雨。暑さのために窓を閉めることもできず、音楽を消してソファに寝転ぶと、頭のすぐ上で雨の音。夜が深まるごとに激しさを増して、ついに、ばたばたと音をあげながら落ちていました。

寝よう。

いつのまにか身体も雨を蓄えたようで、ソファに横たえた身体が随分重くなっていました。ベッドはじっとりとして、シーツが肌にまとわりつきます。頭の上の窓を開けていたことが原因でしょう。ぎゅう、と目を強く、つむりました。

 

嫌な夢。

目を覚ますと、シーツは変わらず肌にはりついて、頭の上ではだばだばとよっぽど強かな音がして、ついでに腕を上げることも爪先を動かすこともできません。金縛という人もいるけれど、わたしはこれを「頭が起きていて身体が眠っている状態」ととらえているので、何も問題はありません。雨に沈むまち、街灯の光が乱反射して、1人暮らしの部屋を満たします。明かりを追ううちにまぶたが下がって、不意に気付くとまた手足は動かなくて…そうして悪夢の間を彷徨っているうちに、朝でした。

 

高らかに鳴く鳥、爽やかな風、路面はすっかり乾いて、昨夜の大雨を感じさせるのはわたしのすっきりとしない頭くらい。

雨が降っていました。