ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

わたしの味

ひとりぐらしなので、料理をします。

食材をそろえて台所にたって下拵えをして食器をあらって…しなくてもまあ生きてはいけるのだけれど、好みの味でおなかを満たしたいときがあります。「好みの味」というのは、たいてい「お母さんの味」。

 

自炊をはじめたころ、どうしてもお母さんの煮物が食べたくて、料理をしました。里芋と椎茸をどっさり入れて、人参や牛蒡も忘れずに。我が家では鶏肉をつかうとき皮を外したもも肉と決まっていたので、皮は後でカリカリにしてビールで一杯。

すべて洗って皮をむいて、それぞれさっと炒めてあわせて調味料を注いでコトコト。根菜類がやわらかくなったら火をとめて一晩ねかせます。

翌日、蒸気でいっぱいの水滴をたたえた蓋を、落とさないようそうっととれば、綺麗な照りと優しい香りの煮物の完成。たまらず一口、菜箸から口に運んで、首を傾げました。

「お母さんの味じゃない」

材料も調味料もまちがえていない。しっかり一晩おいた煮物は味がしみて食べ頃なのに、なにか足りない。「お母さんの味」には到底及びませんでした。

 

後日、「鶏皮は外したあと、鍋で炒めて味をうつす」という行程が発覚。お母さん自身も、特別な意識をせずこなしていたので伝え忘れていたとのこと。これが「お母さんの味」かと感服しました。

 

あれから6年。

最近では、健康のために、きちんと朝ごはんをつくっています。きょうは、お母さんからどっさり送られてきたトマトで、卵とトマトの炒め物。学生時代にアルバイトしていた居酒屋で、キッチンのおじさんが教えてくれたレシピです。

プラス、顆粒だしと塩を少々。

卵は、半分を最初に炒めてフワフワに、のこり半分をトマトとフワフワ卵が合わさった後まわし入れてトロトロに。

 

「お母さんの味」には敵わないけれど、「わたしの味」も悪くありません。

平日、ひとりぐらしの朝。