ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

きちんと帰ってきた夜

きちんと帰ってきた夜はえらい。

お酒が好きです。お酒の味も、酔っぱらった浮遊感も好きだけれど、なにより、その場の全員が笑顔で心地よさそうに他愛のない話をしている、あの空間が好き。なので、居酒屋さんは最高です。あちらこちらで話の花が咲いて、どこもかしこも楽しいだけで。わたしはその空間で、はじめこそ会話の輪にいるけれど、1時間半もすれば口数がすっかり少なくなってしまいます。自分が話すよりもなお、空気を楽しみたいのです。これは、1人飲みではできない楽しみ方。

なので、外飲みをすると、ついつい時間を忘れてしまいます。気が付いたら日付が変わっていたり、化粧も落とさず服も着替えずにベッドの上で目覚めたりして、いけません。

だから、きちんと帰ってきた夜のわたしは、大層えらいのです。

 

その日は、翌日5時起きの予定でした。

22時を過ぎたころには、同じカウンターに座っていた諸先輩方が「ほら、あんたたちもそろそろ帰るよ」なんて声をかけてくれたので、時計を見直して財布をとりだして、いつもお世話になっているご主人にお礼を言って外に出ました。

気温が上がった9月のある日。それでも、風はしっかり秋のふうをしています。1枚羽織るものをもってきて正解。

友だちと、とりとめのないことをひとつふたつ、カウンターの続きのようにして話しながら帰ります。カツカツと、夜の住宅街にヒールの音が響きました。街灯はまばらで、スポットライトのように部分的な明かりを落として、わたしたちは次の明かり、またその次の明かりと目指しながら、ゆっくり歩きました。

「またね」といって別れて自室へ。鞄を置いて、アウターに消臭スプレーをかけて、着替えて化粧を落としてベッドへ。23時。良いタイムです。

 

きちんと帰ってきた夜。

わたしは大層えらいのです。