ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

いえない

「どれ、借しなさい」

おばあちゃんが、子どもの右手からはさみをとります。そして、左手から作りかけの工作をとりました。わたしは何も言いません。言えません。

 

仕事で、子ども向け工作教室のアシスタントをしました。大きなイベントの一角で行われる工作教室には、様々な年代、色々な構成の保護者と子どもが訪れます。夫婦と子どもとか、おばあちゃんと孫とか、お母さんと子どもとその友だちとか。

「そう、そこを切るんだよ」

わたしの仕事は、遊びに来た子どもたちに工作あそびを紹介すること。はさみとセロハンテープをつかってつくるロケットに、色紙やペンでかざりつけをして、ティッシュを丸めた球を飛ばします。未就学児には少し難しいらしく、道具をもってきょとんとしている子に声をかけます。はさみを持って、とか、セロハンテープはこうして、とか、なるべくその子の手に持たせてコツを教えて、そうしてようやく、しゃきんとひと裁ち、ちゃきっと一片、道具を使って工程を進めると、ふわっと、眉根や口元がゆるんで、目の奥がきらんと光るのです。そうした光をつみかさねて、おしまいに作品を掲げるときには、眩しくてこちらが目を細めるのでした。子どもの瞳に宿る光は、大人が宿す光よりずっと小さくて、それでも忙しく瞬きます。だから、わたしは声をかけるだけ。

 

「むずかしいね、もう1回やってみよう」

4歳くらいの男の子。わたしが言うと、彼の後ろから、ぬっと大きな手がのびました。彼の白くやわらかそうな手より何倍も大きくて、シワが寄って、黒っぽい手。

「どれ、借しなさい」

おばあちゃんらしきその人は、あっという間に、はさみでしゃきん、セロハンテープをちゃき。

完成したロケット。

けれど、彼の顔は、彼の目は、眩しく光りません。

わたしは何も言いません。言えませんでした。