絶対に楽しい
「あいちゃんは、そのほうが絶対に楽しいよ!」
先輩が言います。
快活で、周囲をアッと言わせる先輩の言動が好きです。一緒にいると元気になるし、先輩のようにパキッと決断してガツガツと動けるような気がしてきます。
けれどその時ばかりは、火照った頭が冷めていくのを感じました。「絶対」という言葉が飛び出したとき、わたしの口からは
「すみません、明日も仕事で…」
明日は、お休みでした。
わたしと先輩は、違う人間です。
わたしもかつては、人間はみな同じ要素で構成されていると思っていました。わたしが楽しいことは、彼も彼女も楽しい。ただ、その楽しさを知らないだけ。懇切丁寧に説いて導けば、みんな共通の「楽しい」を謳歌できるものと信じて疑いませんでした。
ちょうど、わたしたちの前には共通のドアが同じ数だけあって、それを開けば平等に「楽しい」が待っているような。けれど、そのドアの数が、人によって異なることに気付きました。ドアがなければ、わたしがいくらドアの形状やドアノブの回し方や、ドアを開けた先の景色を説明したって、彼や彼女にはさっぱりです。
わたしたちのドアは、人それぞれにあるのでした。
万人共通の「楽しい」は存在しません。
ましてそれを「絶対」なんて言葉ではめ込んではいけません。
わたしたちは、わたしたちにそれぞれの「楽しい」を謳歌するのです。