ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

彼女と会った朝

わたしが彼女に出会ったのは、朝、テレビ液晶のなかでした。前日の夜から始まった、1人オールナイト映画。レンタルショップで借りてきた5本のDVDに、お酒とおつまみを用意して、順繰りに見ていきます。そのなかの最後の1本で、彼女と会いました。

 

空がゆっくりと白むのが、映画を映すテレビの向こうに見えます。4本目の映画が中盤に差しかかるころ、居間の電球を落としました。ぶるり、と身震いをひとつ。気温が下がっているのを感じて、こたつの裾を手繰り寄せ、ぐっ、とお酒を流し込みます。窓の外にそろそろとした人々の生活の気配を感じて、それでも、残り1本になったDVDを見ないわけにはいかない気持ちでした。

 

現実世界とはほど遠い世界観で展開されるストーリー。実力派の俳優陣と細部まで作り込まれた映像、そしてお酒でどこかふわふわとした頭のおかげで、あっという間に引き込まれました。そのなかで、彼女は歌っていました。

 

映画を見終えるころには、国道を走る車のエンジン音がひときわ大きくなっていました。底にワインの赤色が残るグラスを流し台にさげ、おつまみをのせていたお皿を水につけます。そのとき、頭を埋め尽くしていたのは、映画のストーリーと美しい映像、そして、彼女の歌声でした。

 

彼女の歌は、彼女の声で歌われるからこそ美しいのです。鼻にかかったような息づかいと、耳に残る高音、その特徴的な歌い方は、好き嫌いが分かれるでしょう。けれどわたしは、誰がどの曲をどんなに高らかに歌い上げようと、彼女が産んだ彼女の歌は、彼女が歌ってこそ生きるのだと思います。

 

彼女の曲のカバーをラジオで耳にして、彼女と出会った朝を思い出したのでした。

 

やさしい気持ち

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  • adieu
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