ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

白線上を行く

それはまるで、アスファルトにすうと引かれた白線の上を歩くような。右に倒れこんでも、左に踏み外してもダメ。まっすぐ線上を行くことにこそ意味があって、両手を広げてバランスをとるような。

彼の曲には、そういう魅力があります。

 

おぼろげに揺れる歌声に惹かれました。

何気なく再生した動画。黒縁メガネに重たい前髪、眠そうなまなざしは、まったく高校生然としていました。けれど、彼がすう、と息を吸いこんだ瞬間、アコースティックギターの弦をはじいたその時に、空気が研ぎ澄まされたのを覚えています。激しい旋律と強い歌声、メッセージ性のある歌詞が、彼は高校生であるということをすっかり忘れさせました。以来、彼の曲は欠かさずチェックしています。

 

先日、ニューアルバムが発売されました。やっぱり、右でもなく左でもなく、迷うことなくまっすぐに、白線の上を行く彼。もし、そのどちらかに倒れ込んでいたとしたら、わたしはこんなにも、彼の生みだす音楽に夢中になっていなかったでしょう。彼の保つあやうげな均衡が、それをまだ10代の青年が守っているということが、わたしの興味を強くひくのです。

 

アスファルトの白線は、その上を何人もが歩き何台もが走り去ったことで擦り切れています。きちんとそろえたつま先をのせて、一歩一歩。倒れ込んで、白線上を行くことを諦めてしまう人もいるなかで、彼は背筋をのばし先を見つめ、まっすぐに進みます。

その絶妙なバランスがまったく美しいのです。

 

鳥になり海を渡る

鳥になり海を渡る

  • 崎山蒼志
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes