ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

冬のアルテに

美唄市は、道央に位置する人口2万4千人ほどのまち。かつては炭鉱があり、8万を超す人々が暮らしていました。彫刻家・安田侃さんの生まれたまちです。

彼の美術館兼アトリエ「アルテピアッツァ美唄」が炭鉱町跡にあります。山に囲まれた立地と閉校した校舎を活用したその場所は、美術館というより公園のような印象です。

この場所が好きで、長年かよっています。

 

冬のアルテピアッツァ美唄は、しんとしています。春から夏にかけては子どもたちが水遊びに歓声を上げ、秋は写真家たちがシャッターをきります。けれど冬は、大理石作品がすっかり雪に埋まり、むきだしのブロンズ作品たちが、除雪された道で迷路のようにつなげられるばかり。 旧校舎内で展示される作品もうっそりと静かで、薪ストーブのみんみん唸る音がやけに大きく聞こえます。ぱたぱた、みしみし、木々の間を雪融けの水が伝い、枝が重みに耐えられずあちらこちらで鳴っています。遠くで鳥が鳴いたかと思えば、切るような風がマフラーにうめた鼻先をかすめます。さあ、と雪上にかかる太陽の光さえ、この静けさのなかでは音を上げるようでした。それほど、深い雪がすべてを飲みこんで世界から切り離されたような、幻想的な場所でした。

 

その日アルテピアッツァ美唄では、アーカイブ資料が展示されていました。安田侃さんの、自然と彫刻に関する言葉の紹介展示がありました。

 

「アルテは、雪が積もっていますか。どんな音がしますか。」

「自然のなかにある作品が、自然と人を媒介して」

「冬のアルテに来る人に、良いことがあればと念じています。」

 

それぞれの言葉に、安田侃さんの人柄や信念、アルテピアッツァ美唄に対する想いが滲んでいました。帰り道は、行き道よりもいっそう、雪の白が鮮やかに感じられました。空や山からする音が、賑やかに聞こえました。冬のアルテを訪れて、良かったと思いました。

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