ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

対ヒト用のわたし

仕事終わりでした。疲れました。今週は、あと1日出勤しなければなりません。早く帰って早く寝たい。お酒を飲まないとベッドへたどり着くためのすべてのことをこなせない気がします。それに、ドラッグストアに行かねばならないのでした。ボディークリームが、もう、ないのです。

 

「いらっしゃいませ!」

入店すると、ひときわ大きな声。若い店員さんがレジ打ちをしていました。名札には「研修中」の文字。そういえば、以前買い物の際に、棚出し作業をしていた彼を見た気がします。

 

「ポイントお付けしました!」

「本日ライン友だちの方は5%オフです」

「袋、こちらにお入れします!」

 

外はまっくら。人のまばらな店内。仕事後のわたしは、まとめた髪が崩れ、いくら耳にかけてもするすると落ちるおくれ毛と、だるい足を引きずりながら、昨日も飲んだお酒を今日は控えようかと思案しています。人に会うことを想定しない、完全なオフモードでした。

 

「いつも、ありがとうございます」

 

彼は、レシートを差しだしながら言いました。

わたしは下を向き、飛沫対策として設けられた透明のビニール越しで、彼の顔はよく見えません。けれど、前のお客さんには言わなかった「いつも」の言葉に、いち個人として認識されていると感じ、かろうじて「ありがとう」と受けとって、つっつと袋詰めをして、逃げるように家路につきました。

 

わたしは人と顔を合わせるとき、随分、対ヒト用の自分をつくっているのだと気づきました。

個人商店やカウンター越しの居酒屋など、店員さんと顔を合わせることが前提のお店も好んで行くけれど、ぼさぼさの髪、すっかり落ちたリップ、布団に入ることだけを考えた顔では、絶対に行きません。全国チェーンのドラッグストアで、対ヒト用でないわたしを発見されたことが随分恥ずかしく、その夜は、やはりお酒を飲んだのでした。