ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

飛行機

「あっ、飛行機」

北海道の空の玄関口といえば、新千歳空港。このほか、道北なら旭川稚内に空港がありますが、航路を考えると北海道の左上上空で飛行機を見ることは稀です。だから、実家までの帰り道、大きなからだにつけたライトをチカチカさせて、空の低いところをゆっくりとぶ飛行機に、胸が跳ねました。

 

わたしは、北海道の下の方で生まれました。道央に分類されることもありますが、太平洋に面した町です。そこではよく、飛行機が見えました。新千歳空港は本州からやってくる飛行機を太平洋側から迎えます。その町は航路上にあり、落ちてくるのではないかというほど間近で、飛行機が見られました。時速何百キロで進む飛行機ですが、地上から見える距離までくると、速度を落とします。それは車に乗っているわたしでも追いつけそうなほどで、ずんずん大きくなる飛行機の姿に、「追いかけて!」と車を運転する父にせがんだのを覚えています。

 

小学校に上がると、近所の友だちみんなで外遊びをしました。ままごとやヒーローごっこ、ひたすらに自転車を乗り回したりしました。ある日、遠くの空で飛行機が白い尾を引いていました。晴れた空に機体をきらきらさせて、一直線に空を登っていました。もしかしたらあそこまで行けるかもしれないと、友だちと一生懸命に自転車をこぎましたが、その距離は縮まることなく、やがて飛行機雲はすっかり空の青にとけてしまいました。

 

大人になって、地元を離れ、北海道の左上に暮らしています。実家まで、高速代をケチって5時間、車を走らせます。すっかり暗く、街灯もまばらな道路わき、木々の向こうに滑走路が見えます。青く輝く滑走路灯、ターミナルの窓から漏れるオレンジの灯り、そこへ、赤と黄のライトをチカチカさせた飛行機が、手を伸ばせば届くのではという距離を滑空してきます。

 

この光景を北海道の左上に育った子どもたちは知りません。

そう考えて、ちょっと得をした気持ちになりました。