ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

うるおう生活

「よう、ご機嫌いかが」

仕事を終えて帰るころには、家はまっくら。誰もいない室内はひんやりとしています。カバンを置いて、電気をつけて、コートを脱ぎ落として、彼らに挨拶を。窓際に並べたハナキリン、水木蓮に、今シーズンからハーブの寄せ植えが仲間入りです。

 

母は、お花屋さんに勤めています。お花屋さんといってもお洒落なところではなくて、スーパーの隣の更地にビニールハウスを建てた、農家さん直営の花屋さんです。切り花より、苗やプランター、土やら肥料やらを売っていて、母はそこで、散歩コースのように通うおじいちゃんおばあちゃんに囲まれて働いています。

「お母さんは、植物の言葉がわかるんですよ」

親子でお世話になっている美容師さんが言っていました。本当にその通りだと思います。水やりのタイミングとか伸びすぎた葉っぱの剪定とか、わたしなら首を傾げてしまうことを事もなげにやって、大輪の花を咲かすのです。

 

先日、実家に帰ったとき。

母と直売所を訪れ、花の苗を見ていました。

「そういえば、ハーブの寄せ植えがほしいと思ってた」

すると母は2、3種類のハーブをわたしに選ばせ、翌日朝には、プランターにバランスよく植えられていました。それを、北海道の左上の自宅まで持ち帰ってきました。

 

夜、仕事から帰って玄関扉を開けると、緑色の香りがします。陽をいっぱいに浴びた植物が、ぐうんと葉を伸ばす香り。胸いっぱいに吸いこんで「ただいま」と一言。植物は、言葉をかけて育てると良いとどこかで聞きました。一人の部屋に響くわたし一人の声。けれど、どこか優しく受け止められたような気持ちになります。

 

このハーブたちは、もっと葉を伸ばしてきたら、カプレーゼやモヒートになります。わたしの、夏のお酒のお供。これは、母には内緒です。