ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

アイメイク

「コロナのせいでマスクをしなければならなくて、昨年いまごろには化粧品の需要減退が叫ばれてたけど」

美容室のふかふかの椅子に深く腰掛けながら、口を開きました。大きな鏡に映るわたしの顔には、もちろんマスク。フェイスラインがあやふやで、美容室の大きな鏡の前では、ちょっぴりありがたかったりします。ただしその下は、きちんと日焼け止め下地ファンデーションを塗り、口紅をひいています。

 

最近、仕事で会った年下の女の子が、化粧をしていませんでした。ついこのあいだ大学を卒業したような、うら若き乙女が。一方、5年前にとっくに大学卒業したわたしは、グラデーションアイメイクにラインをひいて、マスクの下はオレンジリップ。叶うなら、一筆にも飾らぬその顔に化粧を施させてほしいとすら思いました。女の化粧はマナーだとか、化粧をしないのは女として終わってるとか、そんな馬鹿げたことを言うつもりはありません。ただ、朝日をあびながら化粧をするその瞬間が1日中で1番好きなわたしは、なんだか虚を衝かれた気持ちになったのです。

 

「でも、口紅が不要になっているぶん、アイメイクに力入れがちじゃありません?」

わたしの言葉に、美容師さんは深く頷きました。それもそのはず。美容師さんの目元は、キワからレッドパープル、ピンク、ピンクラメと美しいグラデーションで整えられ、大きな目がさらに大きく強調されていました。

そして。

美容師さんのもっともらしい顔にふふ、と笑うわたしの目元もまた、キワをオレンジブラウン、下瞼から目尻の上までをラメの入ったオレンジでかこい、瞼の中央と目頭にはゴールドラメを散らしていました。

「それでもやっぱり、綺麗な口紅は買っちゃうよね。はやくマスクを外して、それをひいて街を歩きたい」

今度、もっともらしく頷いたのはわたしでした。