ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

わたしの部屋、植物禁止

実家の自室は南向きでした。おまけに東にも窓があったので、日の入りから1日の大半で日光がふりそそぎ、家中で1番陽が入るのがわたしの部屋でした。 

そこに目をつけたのは、植物を育てるのが好きな母。庭もプランターも鉢植えも、上手に植えて花を咲かせる母にとって、わたしの部屋は絶好の植物育成場です。出窓には、所狭しと鉢植えが並びました。

 

最初こそ、青々と枝葉を伸ばす植物を微笑ましく見ていました。晴れの日はもちろん、雨の日だって雪の日だって一生懸命に太陽へ向かって背伸びをし、それでも十分な陽の光が得られなかった日はちょっぴりしょんぼりする彼らに、生きる力を感じました。でも、彼らのそれは、思春期まっただなかのわたしに少々刺激が強すぎました。

 

上手くいかないことばかりが目につく毎日。勉強、習い事、家庭、友人関係。いつも心のどこかに靄がかかっていて、すっきりと晴れることがありません。けれど、窓辺の彼らはいつも、太陽に向かってまっすぐ葉を伸ばしていて、その姿すら眩くて、10代のわたしの心に影を作りました。

ある日、平日の疲れを癒そうと昼まで眠ることを心に決めた朝、強い芳香で目が覚めました。太陽はすっかり上りきって室温をあげ、それに共鳴するように、ピンクの花をつけた鉢植えが生き生きと枝葉を伸ばしています。それが目に入った瞬間、わたしは自室のドアを勢いよく開けました。

「おかあさん!わたしの部屋、植物禁止!!!」

 

「植物は元気をくれるって言うわよ」なんて不満をこぼす母でしたが、思春期の娘の叫びには敵いません。その日からわたしが大学進学のために実家を出るまで、出窓が植物に支配されることはなくなりました。

 

10年近くが経過して、わたしの一人暮らしの部屋には3つの鉢植えが並んでいます。なかでもお気に入りは、母が引越しの日に挿木してくれたハナキリン。いま、その木にはピンクの可愛らしい花が咲いています。

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