ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

思い出の

朝の狸小路は、思った以上に眩しかったのを覚えています。

かつての札幌国際短編映画祭は、ノミネート作品のオールナイト上映が行われていました。シネコンが主流となった昨今、オールナイト上映はいち映画ファンとして憧れで、「短編映画祭」というよりも「オールナイト上映」に惹かれチケットを買いました。

 

会場は、狸小路にあるミニシアター。22時からの上映スタートに合わせて、腹ごしらえをかねファミレスに入りました。映画好きの友だちと2人で煽る安いワイン。上映される大半が海外作品だったので、ワインを飲みたいね、でも安く飲みたいね、ということで決まったイタリアンチェーン。ほろ酔いで赤いシートに腰掛けました。

シネコンのシートなら、ふかふかと身体が沈んだでしょう。けれどそこは、席数360ほどのミニシアター。豪奢な赤色に見えたシートは、ギシギシ鳴る椅子でした。酔ってぼうっとした頭に流れ込む、ぼうっとした短編作品。途中から、考えることをやめました。作り手の想いが、開広げに表現された短編作品を朝まで見るのは、まるで他人の夢を垣間見るようで、まさに悪夢なのでした。

 

お酒のせいか映画のせいか、くらくらする頭で迎えた朝8時。上映終了後さっさと抜け出した狸小路はアーケード街のくせに明るくて、少し冷たい風がツンと鼻につきました。

「帰ろうか…」

疲労困憊といった感じの友だちが、絞り出すように言います。けれどわたしは、ひとつ深呼吸をした途端に、そのまま帰るのが惜しく感じられました。

「わたし、まだ映画観たい気がする」

呆れというか畏怖というか、なんとも言えない顔をする友だちと別れて向かったのは大通りにあるTSUTAYAさん。平日朝一の店内に人はまばらで、選びたい放題のDVDから4枚を選んで、ワイン1本を買って家路につきました。

 

その思い出のTSUTAYAさんの、閉店の報せ。あの朝を思い出しました。