ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

やわらかくてあたたかい

車で片道5時間。それが、わたしの暮らす北海道の左上と、道南にある実家との距離です。けして気軽に行き来できる距離ではありません。だからこそ、たまに帰るわたしのことを、実家のみんなは楽しみにしてくれます。

 

正月の帰省。しかし今年は仕事納めが長引いて、年末休みの始まりが大晦日になりました。平日のうちに散らかった部屋を片付けて、荷造りをして、水道が凍結しないように水抜きをして。さてそろそろ出ようと時計を確認すると、すでに14時前でした。いけない、「夕方ごろに着くよ」と話していたので、妹に怒られてしまいます。荷物を運び出すべくアパートの共用廊下のドアに手をかけて…嫌な予感。

やけに重たい。ノブに手をかけただけでミシリと軋んで、軽いプラスチック製らしからぬ重量感がありました。恐る恐るノブをまわすと、雪で白く染まった銀世界…ではなく、扉の半分ほど、1メートルはあろうかという雪の壁。玄関が、埋まっていました。

壁の向こうでチラチラと人影が見えて、聞くと、昨夜から降り続いた雪に、玄関も駐車場も埋まっているとのこと。雪をかき払うって道を作り、駐車場から自分の車までの道を作り、車を掘り出し、道路まで車が通れるほどの道を作っていたら、ゆうに1時間。その間にも、アパートの前では大型の高速バスが埋まって立ち往生していて、妹に「何時に帰れるかわからない」と諦めのメッセージを送ったのは言うまでもありません。道中でも視界は真っ白、道はガタガタ状態で、実家に帰り着くまでに8時間かかりました。

 

実家の玄関扉を開けると、居間から犬が駆けてきて顔中を舐めまわしました。母はあたたかな料理を用意してくれていて、父は喜んでお酒を持ってきて、妹はわたしの目の前にどっかりと腰を落ち着けて仕事やプライベートのことをつらつらと話します。そして、今こうして文章を打ち込む隣で、猫がわたしの手元をじっと睨んでいるのでした。

だからわたしは、北海道の左上から、道南の実家に帰るのです。