ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

季節を告げる

「今年も出したよ」

母からメッセージ。一緒に送られてきた写真を見て、ああもうそんな時期か、と季節の移ろいを感じます。

 

母はまるで、季節を告げる渡り鳥のようです。

春になると「今年、庭で初めて咲いた花です」と写真が送られてくるし、夏になると「店にトマトが並び始めました」と箱いっぱいに送られてくるし、秋になると「庭も冬支度をはじめます」と少し寂しそうで、冬になると「飾り付けは妹です」とクリスマスツリーの写真が送られてきます。実家から離れて、イベント事に乏しい一人暮らしをおくっているわたしは、母の他愛のないメッセージでその移ろいを知るのでした。

 

この時期に知らされるのは、3月3日のお雛様。

わたしが生まれたとき、孫のなかでも初めての女の子だったわたしに、祖母が買ってくれた雛飾り。毎年この時期、母は丁寧に飾り、3月3日をすぎると、丁寧に仕舞うのでした。(お雛様は、桃の節句を終えてすぐに仕舞わないと婚期が遅れるらしいです。)もうずいぶん、わたしはわたしのお雛様と対面してはいませんが、母が毎年写真を送ってくれるので、そのお顔や、着物の柄、扇子の色まで思いだせます。

わたしがまだ母のお腹の中だったころ、百貨店の催事場で、祖母と母が2人で選んだというお雛様。祖母はもっと絢爛な雛飾りを勧めたそうですが、母は、ズラリと並ぶお雛様の、そのお顔をじっくりじっくり見比べて、「この子」と選んだお雛様が、わたしのお雛様です。ふっくらと白い肌はやわらかそうで、小さく笑んだ口元が愛らしいお雛様。歳を経て見ると、わたしの顔もどこか、お雛様に似ているような気さえします。

 

「今年も出したよ」

母からのメッセージ。雛飾りと、お雛様のお顔の写真。

「なんだかちょっと、具合が悪そう。気にかけておくね」

続くメッセージに、笑ってしまいました。いくら母といえど、お人形の体調までわかるでしょうか。いえ、わかるかもしれません。