ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

右向きで寝るか、左向きで寝るか

わたしは、壁に背を向けて眠ります。それは小学生の頃から染みついた癖のようなもので、6歳のころ、小学校にあがりたてのわたしは3つ下の妹と2人で眠っていました。居間の隣にある寝室で、妹、母、わたし、父の順に並べられた布団。父は仕事で帰りが遅く、母はわたしたちを寝かしつけると居間で家計簿をつけたり裁縫仕事をしたりしていました。居間につながる引き戸が少しだけ開いていて、明かりが漏れています。隣の部屋に母がいるという安心感はありますが、やはり、幼い妹と2人きり暗い部屋のなかで目を閉じるというのは、得体の知れない恐怖がありました。わたしは、壁際に眠る妹にそっと耳打ちしました。

「わたしはこっちを向いて眠るから、あなたはむこうを向いて寝て。お互いに見張りながら眠りましょう」

何から「見張る」のかはわかりません。とにかく、妹を壁に向かせ、わたしは父の布団が敷かれた暗闇、その向こうの窓をじっと睨み、妹と背中合わせに眠りました。

 

わたしが背中を無防備にして眠ることができないのは、その頃からです。必ず壁なり誰かなりに背を預け、部屋が見渡せるようにして目を閉じないと落ち着きません。

世には、眠る時の姿勢に個性が出るという人もいます。右向き、左向き、うつ伏せ、仰向け…わたしはベッドによって、正確にはベッドの配置によって姿勢が変わるので、その論においては仲間はずれをくうでしょう。

 

最近、引っ越しをしました。ベッドの配置が変わりました。

これまでは左向きに眠っていましたが、今の部屋は壁が左手にあり、右向きで眠らなければなりません。腰が捻れるような内臓の収まりが悪いような不思議な心地になりながら、それでもいつかは、右向きで眠ることに慣れるでしょう。引っ越しから早1ヶ月、安心して眠る夜はまだもう少し先です。