ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

犬とおばあちゃん

なんだかどうも、気乗りしない日でした。昨日の8時間講習会の疲れでしょうか、その後の、親よりも歳上の方との飲み会でしょうか、それとも、上手く暮らしを営めない自分への失望でしょうか。

朝起きたけれど日課のストレッチができず、時間だけがダラダラと過ぎていくので仕方なしにシャワーを浴び、好きなはずのお化粧ですがお休みにして、机の前に座る気力が湧かずベッドに潜り込んで、そんな自分にガッカリして、陽の光から逃げるように布団を頭まで引っ張り上げて目をつむりました。それでもバイトがあるので、家を出る時間の30分前に起き出して、髪を撫でつけアウターを羽織り、財布とケータイ、そしてお隣にまわすための回覧板だけ持って家を出ます。

 

すると。

おばあちゃんが、我が家の前の電柱の下で立ち止まっていました。足元には白い小さな犬がちょこちょこと、歩いたり止まったりしています。

「こんにちは」

今日のわたしは、あいさつさえ億劫。でも、2、3メートルほどの距離ですから無視もできません。

「こんにちは」

するとおばあちゃんも朗らかに返して、

「きょうはちょっと寒いわね」

と続けました。会話が続いたことに面食らって、でも無下にもできませんので、

「そうですね、風が冷たいですね」

と返します。すると、白い小さな犬が

「ワンワンワンワン」

とけたたましく鳴くのでした。

わたしは、おお、とも、うう、ともつかない声をあげて、宥めるように犬に声をかけて、するとおばあちゃんが

「これこれ、吠えちゃだめよ」

と言います。ちょっぴり、実家の黒い小さな犬を思い出して、おばあちゃんに笑いかけ、回覧板をお隣に持って行って、車に乗り込みました。

エンジンをかけ、シートベルトをし、発進するとおばあちゃんはまだ少し先を歩いていて、わたしが車で追い越すと、ニコニコと笑って手を振りました。

 

なんだか、わたしはまだ大丈夫な気がしました。