ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

都会の暮らし

ここに住みたい、と思いました。

わたしは、北海道の左上に住んでいます。ただ、髪を切るのは大学時代からお世話になっている美容師さん。車で2時間とちょっと、コロナ禍に自車でトンボ帰りしていたこの2年でしたが、もうそろそろと思い、一泊設けてバスで行きました。

 

ひさしぶりの、都会。

どこもかしこも明るくて、話し声から広告までさまざまな音が飛び交って、絶えず人が行き交う都会。これだけ人がいるのですから誰かの視界には入っているでしょうが、誰の気にも留められぬまま、あっちへフラリ、こっちへヒラリ。そのうちに疲れて、公園のベンチでプリンなんか食べても、誰も何も言いません。通りがかりのおかあさんに手を引かれた子どもが、じいっとこっちを見て遅い歩みをさらに遅くするくらい。

それなのに、バーのマスターが愉快で終始笑わせてくれたり、隣に座ったひとと映画の話で盛り上がったりします。そこには、都会の暮らしがありました。田舎にはない暮らしでした。

 

わたしは、大学時代をこの街で過ごしています。毎日あの人混みの中をスイスイと歩き、迷わず目的地へ行き、疲れたら手頃なカフェに入りました。でも、就職して毎朝8時のぎゅうぎゅうの地下鉄に乗ることを考えると、どうにも暮らすべき場所ではないように思ったのでした。

 

いま、ちょっぴり、ほんのちょっぴり、都会の暮らしも悪くない気がしています。

 

帰りのバス。陽がだんだん落ちて夜に沈んでいく窓の外、静かに揺れる車内は絶妙な暖かさ。眠くなってきました。このままずっと、このバスのこの席に座っていたいと思います。一生この揺れに身を預けていたいと思いました。でも、バスはしっかり、北海道の左上の停留所に停まります。

 

降り立つと、まだまだ冷たい風がふいて、眠気に重くなった目を覚ましました。