ひん曲がっている
わたしの毛根はひん曲がっています。
くせ毛は、毛根の形が曲がっているために生えてくる髪がうねってしまうというのをご存知でしょうか。うちは父も母もくせ毛。疑いようもなく、わたしの毛根はひん曲がっているのです。
「あいは、その髪で飛べるんでしょう」
中学の担任に言われました。
中学時代まで髪を短くしていたので、顔のすぐ横、こめかみあたりにかかる髪がピンと外ハネしました。まるで顔の横に羽が生えたようなシルエット。長く伸ばせば重力に負けるため、それ以来、ロングヘアになりました。
10年後。
なんで、シャワーを浴びた直後だというのにはねているのでしょう。人生で1番髪を短くして、毛先が肩につくことはありません。でも、襟足を離れてすぐの後ろ髪が、ピンと左に大きくなびいているのが鏡越しに見えます。風もないのに流れる髪。寝癖でもないのに、しっとりと濡れているのにはねる髪。
これはもう、毛根がひん曲がっているとしか言いようがありません。
鏡に、髪をアイロンで撫でつけ、ハードタイプのヘアスプレーでガチガチにかためた、中学時代のわたしがちらりと映りました。必死になって押さえつけて、こめかみのところなんて不自然な束になっています。でも、これがはね上がって羽のようなシルエットを作るよりマシでした。
その姿を振り払うように、オイルを馴染ませ、ブラシを通しながらドライヤーをかけ、ワックスで仕上げるわたしがいます。忌々しいくせ毛。その想いは今も昔も変わりません。でも、あの頃はもっと暗い顔をして、鏡と睨めっこしていました。はねてしまった髪を撫でつけて、それでもひん曲がるので、まあ、もういいでしょう。
オレンジのアイシャドウをのせて、テラコッタリップをひいて。
ノースリーブに、ドルマン袖のカーディガン。
大ぶりのピアスが揺れるので、はねた髪なんて気になりません。
あの頃のわたしに、教えてあげたいと思いました。