ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

あなたにとって映画とは?

好きなことについてなら、永遠に語れるものと思っていました。わたしは文章を書くのが好きなので、なんでも言葉にしなければ気が済みません。最高だと思った瞬間、好きなことの好きなところ、そのときの感情まで、言葉にしてより多くの人に知ってほしいと思います。

でも、そうではないのだと気付きました。

知り合いと「好きなものは?」という話をしていて、わたしはあれやこれやと言葉を並べるけれど、彼は困ったように「好きなものは好きだから」と笑うだけでした。言葉が出てこない、言葉では言い表せないほどの感情。本当の「好き」を見た気がしました。

 

わたしは、映画が好き。

興味深いストーリー、俳優さんの演技力、監督のクセ、画づくりや挿入歌の素晴らしさ。映画ひとつとってもさまざまな視点で観られます。それらを作品やらジャンルやらを例にあげて話をすると、誰しもどこかしらに「面白い」と思うポイントがあり、それが嬉しくて、ついつい夢中で語ります。映画の話になると身体がふわっと軽くなり、視界が明るくなる気がするのです。

 

そうすると、たまに訊かれます。

「あいちゃんにとって、映画とは?」

これって、なんて答えるのが正解?

きゅうに、壮大な景色をバックにお洒落な音楽が聞こえてきそうです。空気みたいな存在(そこにあって当たり前)とか、水(なくてはならないもの)とか答えればよいのでしょうか。そもそも、物を物で例えるのっておかしくないですか。

 

映画は映画。わたしにとって、何ものにも変えがたい、かけがえのないものです。何か別のもので形容しようにも、最適な言葉がありません。それはまるで「好きなものは好きだから」と困ったように笑う彼のように。

彼のあの表情に、心底羨ましいと感じたのを覚えています。彼のあの感情を、わたしも抱けているのでしょうか。そうであったら嬉しいです。