ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

スカート

「札幌ならいいけど…」

そう思い直して、持ち上げたハンガーを戻しました。深いスリットの入ったロングスカート。綺麗なデザインだけれど、買ったところであの田舎町で着れる気がしません。

 

そういうことがたびたびあります。服を買うときは札幌に行きますが「札幌なら着ても気にならないだろうけど、田舎なら着れない」と思って諦めます。華々しいフレアが印象的なスカートとか、胸元がぱっくり開いたトップスとか。いろんな人が行き交う札幌なら誰もわたしの服装に気を留めることもないでしょうが、歩く人もまばらな田舎でそんな格好をしていたら、悪目立ちします。だからわたしは、素敵と思ったもの、やりたいと思ったこと、わたしの信じるものを信じきれません。

 

買い物を終えて、駅前の居酒屋。

ざわざわと話し声の絶えない店内で、大学生のグループや、仕事帰りのOLや、1人フラリと訪れた男性がジョッキを傾けています。わたしの隣に座ったのは男女のカップル。女性の甘い声色があまりに甲高くて、思わず目をやりました。

わたしよりひとまわりと少しは上であろう女性。ぎらぎらしたストラップのサンダルに、豹柄のてろてろしたトップス、そして、膝より短いレザースカート。その向かいに座るのは、わたしと同じくらいかもう少し下の男性でした。

 

わたしもこの街に生きていたら、あの女性になれたのでしょうか。着たい服を着て、言いたいことを言って、甘えたいひとに甘えたいように、甘えたでしょうか。

きっと、なれなかったろうなと思います。

だからわたしは、深いスリットが入ったスカートを諦めて、ラインの綺麗なキャメルのスカートを買ったのです。それもそれで、悪くないと思います。