ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

冷やされた部屋

今週のお題「冷やし◯◯」

 

実家の居間にはエアコンがついています。わたしが中学に上がるころに建てた家ですから、もう15年ほど前のこと。当時北海道の物件にエアコンは珍しく、新築の家に取り付けられたエアコンを見て「我が家も上流階級の仲間入りか」と誇らしくなりました。(実際は家の前が舗装されておらず、窓の外をシカが通るほどの田舎物件)

しかし北海道はエアコンが必要なくらい暑くなることは稀。エアコンはスイッチを入れられることがないまま1年ほどが経過して、居間の壁にとりついたずんぐりむっくりの機械に見えてきたある日、ついに我が家のエアコンも活躍のときを迎えました。ウサギがやってきたのです。

 

飼っていた亀の水槽だか砂利だかを買いにペットショップへ行ったとき。片手におさまるほどのミニウサギの赤ちゃんが、入口のまっすぐ正面に置かれたケージでひしめき合っていました。わたしと妹、母はすぐに心奪われて、それを察知した店員さんがわたしたちの膝の上にウサギを乗せたら、もう、コロリ。ずっと「うちは動物を飼いません!」なんて禁止令が敷かれていた我が家にも、金魚、ハムスター、亀という経歴をたどってついに、中型の哺乳類がやってきたのです。

 

ウサギは暑さに弱いそうです。

ある日、学校から汗だくで帰宅するとひんやりと涼しい居間。家を建ててから作動することのなかったエアコンのスイッチが入っていて、涼やかな居間のまんなかにはウサギのケージ。ウサギが快適そうにピンクの鼻をひくひくさせていました。

「エアコンつけたんだ」

「ウサギが暑そうだったから」

これでは、果たしてエアコンが人間のためにつけられたのかウサギのためにつけられたのかわかりません。それでもウサギの恩恵を受けて、わたしは冷やされた部屋で快適な夏を過ごしました。

 

それから8年ほどして、ウサギが亡くなりました。のちにイヌが、さらに1年後にはネコがやってきました。イヌやネコはウサギより暑さに強く、エアコンの機械的な風より窓から入るそよ風のほうが良いようです。部屋が冷やされることはなくなりました。わたしの快適な夏はやってきません。でも、ネコのあとを追いながら冷えた場所を探す夏もよいものです。