ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

天候、晴れ

「晴れてよかったね」

彼女が言いました。背丈の1.5倍はあるひまわりと一緒に写真を撮ってくれとねだるわたしに、バシャバシャと十分すぎるほどシャッターを切ったあとのことでした。

 

北海道の右下への出張を終えて、十勝に暮らす友だちを訪ねました。大学で知りあい、もう10年のつきあいになる彼女。わたしは北海道の左上で、彼女は北海道の中心よりちょっと右下で暮らしていますが、年に何度かは予定をあわせて会っています。初めて海外へ行ったのも、10時間かけて世界遺産を見に行ったのも、彼女と一緒でした。

 

ことさらに、彼女と見た世界遺産の感動を覚えています。山道を登り5時間、下り5時間。さらに登山道までのバスに揺られて、全行程12時間の道のりでした。険しい道ではなかったのが幸いですが、帰り道はわたしたち2人ばかりでなく、ツアーに参加した誰もが無言でした。宮崎県屋久島での思い出です。

 

屋久島は、ひと月に35日雨が降ると言われるほど雨が多い島です。生い茂る緑が雨の雫を受けてつやつやと輝く様子が、その深い色から想像できました。想像できた、というのはわたしがその島に滞在している間、雨にあたることはなかったためです。わたしと彼女は、雨に降られず世界遺産までの道のりを歩きました。

 

わたしたちは2人でさまざまな場所へ出かけてきたけれど、度々天候に恵まれます。わたしも彼女も、晴れ女の自覚はありません。ただ2人揃うと、なぜだかいつも天候は晴れでした。

 

「わたしたち2人だと、いつも晴れじゃん」

わたしが言うと、彼女は驚いたように目を見開いて

「たしかに」

と言いました。でも、この不思議な事実に気づいたのは、わたしより彼女のほうが先です。それを彼女はすっかり忘れているようでした。

「あいちゃんといると、晴れるな」

十勝晴れの青空を一身に受けるように、彼女がうんと伸びをします。わたしも彼女の後ろ姿を追いながら、うんと相槌をうちました。

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