居酒屋人間観察
「おい〜急に連絡してくんなよ!」
白いブラウスに細いリボン、毛先をゆるく巻いた栗色の髪を揺らして、女の子が言いました。わたしより2つ3つ下でしょうか。いえもしかしたら同い年、上なんてことも考えられます。女性の年齢はわかりません。ただ、小動物のようなその見た目に反したぶっきらぼうな言葉に、ちょっと驚きました。
居酒屋でバイトをしています。火曜日と金曜日の夜は、昔ながらの焼き鳥屋で厨房とホールを行ったり来たり。その日も女性グループにおしぼりを出して裏に引っ込んだら、すぐにマスターが入ってきました。
「あの子たち、なに?」
なにってなんですか。笑ってしまいましたが、まあマスターの反応もわかります。こんな田舎では、胸元にリボンをつけたり白いフリフリのブラウスを着たりした女性ばかりの5、6人グループは稀です。
「帰省じゃないですか」
「いや〜でも大学生にしちゃもう少し年齢上じゃない?」
あ、と思い出したようにサラダとポテトフライの注文を言いつけて、マスターは焼き場に戻っていきました。
注文の品をお出しして、隣の席を片付けていると反対隣の男性グループが「あの子かわいい」とかなんとか言うのが聞こえます。
細身で女の子らしい服装の彼女らはたしかにかわいいけれど、その声と話し方から、わたしは「かわいい」と別のものを感じます。
ああ、外を出歩くと、こうやって赤の他人になにかとジャッジされるのかと恐ろしくなりました。だってもしわたしがお客さんとしてこのお店に来ていたら。
「どぁ〜〜〜おつかれ…!」
と疲れた顔で入ってきて、並々のビールをぐうっと傾けて、ぐわーとかくうーとか声にならない声をあげるでしょう。その姿は「かわいい」とは到底かけ離れています。気をつけなければと思う反面、厨房に戻ったわたしはマスターに聞きました。
「あの男の子たち、なに?」
昔ながらの焼き鳥屋には、さまざまな人が集います。彼らの観察はやめられません。