ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

時給1,000円の居酒屋バイト

「好きに飲んでください」

マスターが、厨房に顔半分だけをのぞかせて言います。お客さんが落ち着いたと見込んだのでしょう。残っていた洗い物を片付けて、水まわりを綺麗にしたら、ガラスケースからグラスを取りだし、まずはビール。カウンターにつくと「お、あいちゃん」と常連さんが話しかけてくれます。そんなわたしの、バイト風景。

 

今年度のはじめにフリーランスになってから、生計がなかなか安定しなくてアルバイトをしています。時給1,000円の焼き鳥屋。もとはお客として、多いときには週に1回とか2日連続とかで通っていた場所です。お酒を飲むようになって初めて1人飲みができるようになった場所でもあります。1人飲み、といってもマスターと話をしたくて飲みに来ているようなもの。

わたしがカウンターにつけば、マスターはドン、と空になったグラスをカウンター台にあげて、セルフサービスのサーバーからハイボールをそそがせます。「客にやらせるなよ」という話ではありますが、それはマスターが限られた常連さんにしかしない振る舞いで、はじめて自分の目の前に空になったグラスが差し出されたとき、わたしはこのお店に認められたような、マスターとの絆を深めたような気持ちになりました。

 

いまでは店員として働いています。18:00から出勤して、22:00や23:00まで。焼き場にマスターが1人で立ち、裏方から片付けまではすべてアルバイトが1人。このご時世ですから、飲食店のアルバイトより深夜のコンビニとかドラッグストアの品出しとかのほうが稼げるかもしれません。でもわたしは、このお店とマスターが好きでした。

「あいちゃん、ほら、日本酒飲みなよ!」

お客さんが引いてくれば、お酒も飲めるし。…そちらのほうが本音だろうと言われたら、否定はできないけれど。