ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

心の狭いわたしのはなし

「おもしろい話できるの?」

わたしの隣にどっかと陣取ったオジサンが、にやにやと言います。「まあ、ははあ…」とあいまいな愛想笑いを浮かべるわたし。

「少なくともテメエよりはマシな話ができます」

心の底でうそぶきながら。

 

飲み屋で働いていると、いろいろな人がやってきます。特にカウンターは多種多様。マスターが立つ焼き台の向こうでは、老若男女さまざまな人がご機嫌でグラスを傾けました。

わたしの業務は配膳と片付け。けれどホールが落ち着くと、マスターはわたしをそこへ座らせてお酒を飲ませます。マスターの空になったグラスを注ぐ係です。

 

わたしはお客ではありませんから、なるべくカウンターの雰囲気を壊さないよう大人しく飲みます。でもカウンターがそれほどうまらない日は、マスターがお客さんに話しかけるのにあわせてわたしも混ぜていただきます。すると、なんだか、なんだよと思うこともあるものです。

 

20代とあらば席を詰めようとしてくるオジサン。「彼氏いないの?ほんとに?」と口の端を釣り上げてきく年下のオトコ。男性の話はふんふんと耳を傾けるのに、わたしの声なんて聞こえていないように振る舞うオジイサン。「おもしろい話できるの?」と、さも楽しませてもらうことを前提としたオジサン。

 

まあたしかに、わたしも時間給で働いている居酒屋のアルバイターですから、なんだよと思いながらも愛想よく笑って、猫撫で声で、ちょっとボディタッチでもしてやればよいのかもしれません。しかしそれを求めるならば、時給1,000円じゃやってられないと思います。…たとえ就業時間内にお酒を飲ませてもらっていたとしても。

 

だからこれは、心の狭いわたしのはなし。素直にオンナノコとしての愛想を振りまけない、意地っ張りなオンナのはなしです。