クリスマスの帰省
「クリスマスケーキ、1人一台あたるんだから」
離れて暮らす母。わたしが年末年始やお盆に帰省するのを楽しみにしてくれます。これまでは会社員をしていたので長い休みをとるのが難しかったけれど、いまは幸か不幸か暇があります。
「そうだねー…、今年はちょっと長く帰ろうかな」
言うと、母は嬉々としてこたえました。
「そうしなそうしな!クリスマスケーキも1人一台あるからね!」
まるで最大のセールスポイントのように主張されるクリスマスケーキ。実家では地元就職した妹が暮らしていて、共働きの父母も含めそれぞれが職場からケーキをもらってくるのでした。だから、全部で三台。プラス、妹にはお気に入りのケーキがあって、それを別注するのでクリスマスの実家にはケーキが四台。わたしが帰省して4人家族全員がそろえば、1人一台ケーキが食べられるというわけです。
でもわたしはれっきとした27歳。ケーキを一台まるごと食べる夢を見る子どもではないのです。ケーキが食べられるからといって実家に帰る期待値は特別変わらないのだけれど、でも母は、それをいえばわたしが嬉々として実家に帰ってくると考えているのでしょう。
「クリスマスケーキ、1人一台あたるんだから」
母のなかで、わたしはいくつになっても子どもなのです。
帰省して冷蔵庫を開けると、食べかけのチョコケーキが2台、生クリームケーキが1台。妹お気に入りの生クリームケーキはこれからやってくるようです。
「ケーキ、お姉ちゃんにあげてもいい?」
母が妹にお伺いをたてます。
「うちのケーキはみんな、妹が管理してるから。"食べちゃダメ"って言うことはないけど、勝手に食べると"食べたでしょ"って言われるからね。きいてから食べてね」
それは1人一台あたるとはいえないのでは…。
そんなことを思いながら、わたしはあたたかな実家で甘いケーキを頬張るのでした。