ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

おうちケーキバイキング

「お姉ちゃん…またケーキつくったの…」

学校から帰るなり、冷蔵庫を開けて開口一番。玄関扉をくぐった時から甘い香りがしたのでしょう。 3歳年下、体型の気になるオトシゴロな妹は、群青のプリーツスカートを翻して食器棚に手をかけました。

(でも食べるんじゃん)

 

大学1年生の夏、バイトを始める前で、長期旅行に行く友だちもお金もなかったわたしは、長い長い休暇を実家で過ごしました。お父さんは仕事、お母さんも仕事、妹は夏期講習。実家でも1人は変わらなくて、退屈に任せて始めたのがお菓子づくりでした。

 

1人暮らしで料理は人並みにしましたが、お菓子づくりの経験はありませんでした。精々、バレンタインに1年分の女子力を総動員してつくる、見栄の塊チョコくらい。ケーキを焼いたり、メレンゲをたてたり、カスタードを火にかけることはありませんでした。

 

ごはんをつくるのが国語だとしたら、お菓子をつくるのは理科です。

途中で味見して料理を仕上げるごはん作りは、いわば全貌を眺めながら文章を組み立てる国語の授業のよう。これに対して、分量をミリ単位で測り完成まで味見することができないお菓子づくりは、理科の実験のようでした。

すぐに夢中になってレシピ本の1ページ目から、焼いては冷蔵庫、飾りつけては冷蔵庫、冷やし固めて冷蔵庫…。

「冷蔵庫なんにも入らないでしょ!」

夕方、スーパーの袋をさげて帰ってきたお母さんの、途方に暮れた顔が思いだされます。

 

今はもう、お菓子を作りません。

相変わらず1人暮らしだし、お店でもないのに人の作ったお菓子はちょっと…という人もいるだろうし、材料費電気代が馬鹿にならないし。でも1番の理由は、焼いてデコレーションして冷やし固めて、そういうお菓子に任せる退屈がなくなったためでしょう。乙女がドキドキソワソワお菓子をつくっているであろう昨夜もわたしは、せっせと文章をつくっていたのでした。

 

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お菓子づくり全盛期の成果物