ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

たび

ボールペンを1本だけ

荷物は少ないほうです。スマホ、財布、化粧ポーチ、イヤホン、鍵。これらがあれば事足ります。化粧ポーチが入らなければ、鏡とリップとリップブラシだけ。身軽でお手軽なカバンの中身。でも、今後は1つ仲間入りさせようと思います。ボールペンを、1本だけ。 …

出張だけど旅

「JRまで少し時間がある」 朝イチでランドマークになっている建物を見て、お土産を買って、市場を見て、駅前のコワーキングスペースで休憩がてらに仕事をしながら時刻表を確認しました。平日なのですれ違う人の姿はスーツや制服が目立ちます。お土産屋さんも…

天候、晴れ

「晴れてよかったね」 彼女が言いました。背丈の1.5倍はあるひまわりと一緒に写真を撮ってくれとねだるわたしに、バシャバシャと十分すぎるほどシャッターを切ったあとのことでした。 北海道の右下への出張を終えて、十勝に暮らす友だちを訪ねました。大学で…

ゲストハウスの夜

「十勝の峠を越えて目の前に平野が広がったとき、ゼルダのゲームで見たあの感覚があって、興奮しちゃったんですよね」 ゲストハウス。消灯後、キッチンのカウンターにつけられた2つのペンダントライトだけが灯って、それを囲んだわたしたちの顔に不思議な影…

魔法の街

映画「千と千尋の神隠し」のワンシーン。人の影もない抜け殻みたいな街に夜の帳が下りると、ふわっと明かりが灯ってどこからともなく人がわいてくる。その光景が、まさに目の前に広がっていました。 大きな街の飲み屋街に行きました。時間は午後5時。まだ陽…

古書店

晴れた日でした。その街にしてはめずらしく、朝からよく晴れていました。店先に出された本が、少し西に沈みかけたオレンジの陽を受けてカラリと気持ち良さそうでした。目の高さくらいまでの本棚には文庫本がギッシリとつめられ、その足元にも「ミステリ105円…

よい週末

なんとはない週末でした。 ただ、友だちが遊びに来ました。本当に申し訳ないことにわたしの余裕がなくて、 「なに食べたい?」 「海鮮かなあ」 「なに見たい?」 「海!」 のリクエストだけ聞いて、あとは当日行き当たりばったり。隣町に行ったら初めて来た…

こういう場所を

「暑いね!」 声をあげながら入ってきたその人は、特定の誰かに話しかけたわけではなさそうです。でも誰かしらが「そうだね」「暗幕だもんね」「扇風機はまわってるんだけどね」と返しました。男性も女性も、歳上も歳下も関係なく。 こういう場所をつくりた…

一人旅

旅をしたい。 旅をしながら、旅をしたいというのもおかしな話です。でもこの旅は、旅であって旅ではありません。だからやっぱり、ちゃんと旅がしたいと思いました。 ひさしぶりに出かけることにしました。わたしが暮らす、北海道の左上を縦断するスタンプラ…

旅が変わる

「気になっているのは、長崎の五島列島、和歌山の南紀白浜、兵庫の淡路島」 彼女が言いました。わたしは少し考えて、どこでもいいな、と思いました。 学生時代から、旅が好きでした。月に1度、講義もバイトもない週末に、バスや電車の公共交通交通機関を乗り…

お酒を飲めなかった夜

荷物の多い長旅の宿は、ドミトリータイプだとどうにも不便です。じゃあどうしてその日その宿をとったのかというと、飲み屋街にほど近く、宿泊費がリーズナブルだったからです。繁華街の目と鼻の先。少し歩けばぐねぐねとした小路が縦横無尽に広がっていて、…

冬のおでかけ

Googleマップの予測時間、プラス1時間。 Googleマップはずいぶん優秀で、たいていその指示に従えば予測された時間どおりに到着するのですが、冬場はそうもいきません。特に、街中を通る道は車が多く、みんなそろそろ運転なので、プラス1時間みておいたほうが…

夜の準備

北海道の冬に、さっぱりと青空なんてことは稀です。いつも空一面雲に覆われていて、それが薄いか厚いかのちがい。薄ければ太陽が透けて差しますから、割合あかるく、雪が反射して視界が白っぽくキラキラします。しかし厚い雲がかかると、日光が遮断され黄み…

サギのいる神社の町

観光地でもなんでもない町へ行きます。 よく人からは「どうしてそんなところへ行くの?なにがあるの?」と言われます。 それを探しに行くのです。 休日。天気が良かったのでドライブをしました。目的地は、いつも実家へ通う道のりにある町。特別なにがあると…

冬のアルテに

美唄市は、道央に位置する人口2万4千人ほどのまち。かつては炭鉱があり、8万を超す人々が暮らしていました。彫刻家・安田侃さんの生まれたまちです。 彼の美術館兼アトリエ「アルテピアッツァ美唄」が炭鉱町跡にあります。山に囲まれた立地と閉校した校舎を…

黄色い花の価値

「えっ、わざわざ?」 テーブルの視線が、いっぺんに集まります。 冬、随分はやく訪れる宵の口。いつも良くしてくれるおじいちゃんが、晩ごはんがてらに宴をすると連絡をくれました。電話をもらったときすでに15時をすぎていて、わたしは、車で3時間ほどさき…

一般国道40号

アクセルを踏むたびに鼓動が高まる道。 なんの変哲もないバイパスは、片側一車線で信号はなく、みなスピードのままに車を走らせます。周囲は山。たまに開けたかと思えば草がまばらに生えるばかりの野っぱらで、鹿がひょっこり顔を出すたびにハンドルを握る手…

ガイドさんはそのへんにいる

何人かで美術館や博物館に行くと、決まって集団から遅れてしまいます。みんなが売店コーナーを隅々まで見てまわり、出口に設置されたソファなんかでお喋りしている頃にようやく見終わって、「まだ中にいたの!?」なんてびっくりされます。 わたしにとって、…

春のきいろ、夏のきいろ

北海道の左上は、美味しいお米も自慢です。 日本海沿いの街から山際へ走ると、道の両脇が一面、田んぼにかわります。田んぼは、季節を映します。春は静かに水をたたえて鏡のように、夏は青々とした稲を揺らして、秋は一面黄色の海、冬は静かな雪原が広がりま…

まだ見ぬまちへ

北海道に生まれて、北海道に育ちました。 出身は太平洋沿岸、大学進学とともに内陸の都市部へ出て、さまざまなところを旅しました。いまは北海道の左上、日本海沿岸に暮らしています。 この週末、行ったことのない地域への旅行を計画しています。 道内ほとん…

赤に誘われて

仕事がひと段落して顔を上げると、廊下が真っ赤。 職場の玄関は2階で、西向きにつけられた窓から日本海にひらけた漁港が見えます。晴れた日には西日が入って絶好のシャッターチャンス。建物の裏に走る線路、その向こうに広がる夕焼け空、1日のおしまいの光を…

村の食堂

「ねー、みんな彼氏いるよね」 北海道一人口の少ない村で、お昼を食べようと並んでいたときのこと。村唯一の食堂には、観光客はもちろん、地元の高校生が訪れます。わたしの母よりひとまわりは上のお母さんが曲がった腰でもくもくと調理して、息子さんがパキ…

空を見るくらいしかない

中学からの友だちは、卒業すると、北海道で最も人口の少ない村に引越しました。美術を学びに行ったのです。地元の高校に進学したわたしにとって、家族と離れ寮生活をしながら好きなことを学ぼうと決意をした彼女が、すごく眩しく感じられました。結局わたし…

羽幌炭鉱の感動

札幌から車で3時間少々、北海道のひだりうえ、羽幌町の山奥に眠る『羽幌炭鉱』を訪ねました。1935年に操業を開始し、1970年の閉山まで、往時には12000人を超える人が暮らした羽幌炭鉱。海沿いの漁師まち・羽幌町から山奥へ、車で30分ほど行くと現れる街では…

まるい鼻の女の子

ハガキが届きました。宛先は、わたし。差出人も、わたし。旅先から自宅へ、ハガキを送ることが好きです。旅をした地域のベストショットが印刷されたハガキに自分の名前を書いて、その時の気分でひと言ふた言コメントをつけて、日付を残してポストへ。帰って…

田んぼにある季節

遅くなってしまった。高速料金をケチって走る田舎道は街灯も車もまばらで、走り慣れた道を少し不安にさせます。町と町のあいだをつなぐのは田んぼ。山に囲まれた田園地帯です。 先を急いでいるとき、ふと、真っ暗な窓の外で、いつもより明かりが多いことに気…

山のまちは日暮れがはやい

知らないところへ行くことが好きです。 テーマパークとか観光地とか楽しさの約束されているところではなくて、「どこそれ?」とインスタ女子が眉をひそめるようなところへ行きます。そういう場所にも、美しい景観、美味しい食べ物、素敵な人がいることを知っ…