ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

ミニシアターのホール、オレンジ色の豆電球

札幌の狸小路は、アーケードといえどしっかり寒くて、マフラーに顔を埋めて歩きました。騒がしい店内放送や外国の言葉もそこまで行くと随分落ち着いて、自分はこれから映画を見に行くんだと、静かに胸を高鳴らせたのを覚えています。

大学4年生、冬の終わり。

 

当時、好きな監督ができました。

授業で紹介されたカナダの映画監督で、テレビやシネコンで放映されるような知名度はありませんでしたが、わたしは好きでした。美しい映像と繊細に描かれた登場人物たちに、フィクションといえ「世界」を感じたのです。

 

大通りのTSUTAYAさんで作品を片っ端から借りて、だいたい一巡した頃に、街のミニシアターで新作が上映されることを知りました。

初めてのミニシアター。

人がぎりぎすれちがえる階段を上って、廊下の一番奥でした。映画のフライヤーが壁一面になければ、きっと回れ右して帰ったでしょう。中を覗くと人のいないカウンターに、部屋の奥が少しだけオレンジ色に明るくて、お客さんと見られる人がまばらに壁際をうめていました。扉をくぐっても、誰も、ミニシアターとはなんたるか、わたしがどこへ立てばいいのかを教えてくれなくて、見様見真似で上映室の椅子に腰掛けました。

 

小さな上映室に、いっぱいのスクリーン。

明らかに、柔らかさと背もたれの足りない椅子。

前の人が身動ぎすれば、否応なく遮られる視界。

憧れの監督が、今、生みだした世界。

 

4年後、早朝4時。

あの時の映画を見ました。

正直、わたしがその映画を好きなのは、初めてミニシアターを体験した吊り橋効果ではと疑っていたけれど、ちゃんと「世界」が感じられて、やっぱり好きで、安心しました。当時抱いた感想とはまったく違うことを思って、でも今の方が好きで、嬉しくなりました。

早朝の自室、オレンジ色の豆電球と微かに外から漏れる明かりで、ちょっとだけ、恐る恐る踏み入ったミニシアターのホールを思い出したのでした。

 

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