ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

わたしたちの自傷行為

「髪染めたの」 そう言って、頭を左右に振って揺らして見せる彼女。けれどそれは画面の向こうで、パソコン越しのわたしにはイマイチ違いがわかりませんでした。ただ、彼女の顔が晴れ晴れとしていたことが印象的でした。 「髪を切るって、やっぱり、自傷行為…

すきな場所

緊急事態宣言があけました。夜の街にじわじわと明かりがともり、そろそろと出てきた人たちが、少し厚くなった上着の前をかき合わせ目的のお店へ足早に向かいます。安さが売りの大衆居酒屋、料理が美味しい洋食バル、落ち着いた雰囲気の寿司居酒屋。わたしの…

教訓として

わたしが手に取る本は、もっぱらフィクション作品。あり得ないけどあるような、夢と現実の境をふわふわとただよう本が好きです。たまにエッセイも。作者の人柄があらわれる軽妙な文章に浸ります。ノンフィクション作品だって読まないことはありません。とは…

おわってほしくない夜

「ピザつくるから来ない?」 友だちに誘われ、いつもお邪魔している彼女の家へ。勝手知ったる玄関を開けると、男女さまざまな靴が並んでいます。居間のドアからわいわいと声がもれていて、多くひとが集まっているのがわかりました。来ると聞かされていたメン…

わたしたち、いつ会ったんだっけ?

時刻は午前3時30分。毛布をかぶって、そのつるつるとした毛並みを撫でながら、彼女の話に相槌を打ちます。暖房の設定温度が低いのは、わたしが「普段家でも暖房高くしてないから、わざわざ暖かくしなくていいよ」と言ったから。平日、明日も仕事という、冬の…

健康に感謝

新型コロナワクチン、接種2回目。 「薬、ちゃんと用意しておきなよ」 「経口補水液あるから、あげようか」 一人暮らしの20代を、周囲の人が心配してくれます。しかし当のわたしは楽観的でした。両親と妹はワクチン接種後、2回目であろうと熱は上がらず通常生…

お見送り

田舎の雑貨屋さん。大工仕事が得意そうなご主人と、グレイヘアが素敵な奥さまが営んで、広い店内に古道具が所狭しと並べられていました。ガタガタいう引き戸をひいたとき、店の真ん中に置かれたダルマストーブがぱちぱちいって、そのまわりにご主人と奥さま…

わたしは、

わたしはいつも、ちょっぴりお喋りが過ぎます。口数が多いとか、大きな声を出すとかではありません(もしかしたらそれらもあるかもしれません)。大仰な言葉を使ってしまうのです。もっともらしく綺麗な文章で喋りたて、聞いている人はなるほどと頷いて、ほ…

暮らしを人生にする音楽

朝。いつものように起きて身支度を整えます。窓の外から聞こえる鳥の声が、よく晴れていることを知らせます。車通りが穏やかなのか、エンジン音は遠く、隣人が起き出した気配もありません。世間は休日でも、わたしは平日。肌寒くなってきたこの頃、やっとの…

ようやく

大好きなこと。やりたいと思って始めたこと。それが、どうしてもできなくなってしまったとき。彼女は、彼女に問いました。 「それでもできなかったら?」 「やめる。散歩したり、景色をみたり、昼寝したり…何もしない。そのうちに、急にやりたくなるんだよ」…

彼女と友だちで良かった

「『百獣の王・ライオン』というテレビ番組で、インパラが捕食されるシーン。うちのお母さんが可哀想で見れないっていうから、この番組はインパラではなくライオンに感情移入するために作られているのだから、インパラが可哀想っていうのはお門違いじゃない…

派閥

わたしは、TSUTAYA派でした。大学生のころ映画にハマり、DVDを借りにいつも決まって行ったのは大通りのTSUTAYAさん。広い店内に、この世のすべての映画を集めたというような数のDVDが所狭しと並べられていました。就職のために引っ越した田舎町にもTSUTAYAと…

夜を惜しむように

高校生の取材をうけました。部活動の一環で、方針としてアポ取りから取材まで学生が自ら行うらしく、拙い敬語でのメールや緊張の面持ちの打ち合わせに、こちらがソワソワと落ち着かない気持ちになりました。いっそのこと一声かけてやろうかとも思いました。…

美しい日々

日々は美しい。 その気持ちを忘れずに生きたいものです。 たとえば、朝目が覚めたときに隣に眠る恋人の顔が美しいとか、仕事の合間に耳にする人々の会話が興味深いとか、行きつけのバーで繰り広げられる人間模様がドラマティックであるとか。 そうした日々の…

本を読む子ども、読まない大人

わたしは、本を読む子どもでした。 おこづかいシステムはなかったけれど本をよく買ってもらったし、親戚のおばさんがくれるのはいつも図書カード。重たいハードカバーの冒険小説をカバンに入れて「ただでさえ教科書や資料集で重いのに…」と母に呆れられなが…