ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

アイヌネギとホッケ

よく晴れた日でした。

真っ青な空、穏やかな風が、職場のデスクで大人しくするわたしを誘います。たまらず昼休み外へ飛び出すと、チューリップが赤白黄色と鮮やかに陽光を受けていました。最寄りのコンビニまで束の間の散歩をして、また大人しくデスクへ戻りました。

 

「大漁だよ」

陽が傾ぎはじめたころ、職場は一瞬で磯の香り。

たまに、釣果片手に遊びにくるおじいちゃん。きょうはホッケ。朝4時から港に立って釣り糸を垂らしていたと言う顔はどうしたって笑顔です。

「あいちゃんも持ってけ」

職場のスタッフで山分けになったけれど、20代女子一人暮らし、海からあがったばかりの丸々ふとっちょホッケにはお手上げです。

「じゃあ今度、調理してきてやろう」

「いやいやそこまで…!」

遠慮するそぶりをしたけれど、きっと何日かしたら、持ってきてくれるのでしょう。

 

うーん、と伸びを一つ。陽がとうに落ちてそろそろ帰ろうかというときに、職場の玄関口で話し声がしました。お客かなと見ていると、上司がビニール袋を下げて満面の笑み。

「これ!みんなで分けよう」

職場に、一瞬で刺激臭。

アイヌネギだ!」

この季節に山で採れる山菜で、ニンニクやニラのような強い芳香が特徴です。行者ニンニク、通称、アイヌネギ。タラノメや菜の花といったメジャーな山菜はスーパーでも見かけるけれど、こればっかりはご相伴にあずからない限りありつけない、春の御馳走です。

「ほら、そこの新聞とって」

地元のスタッフは、手際よく、袋いっぱいに入ってニオイをさせるアイヌネギを分け、新聞紙で花束のようにくるんと包みました。

「はい、あいちゃん」

 

春です。

みなさんから少しずつお福分けをいただいて、北海道の左上にあふれる春の味覚を満喫しています。