ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

冬の名残をのこして、春のような、夏に踏み切れないような

今週のお題「夏物出し」

 

いまだにコタツを出したままのわたしは、ピンときません。朝や晩に気温が1桁まで落ちることがあり、手の届くところにライトダウンを置いています。

一昨日なんて、

「山菜たべません?」

のメッセージ。職場の先輩が「いただいたけど処理しきれないので、もらってください」とのこと。

 

18:00すぎ、日の落ちかけた外はまだ暖気を残していて、風も穏やか。上着がいらないくらいでした。すっかり綿帽子を飛ばして少し寒そうに揺れるタンポポを見ていると、先輩の車がやってきて、「これ」と押しつけられたのは、45リットル半透明袋。

「え…」

表情が強ばります。袋いっぱいの、たいそうに育ったギョウジャニンニク。芽がついているものもありました。いかにも、山に入って今さっき採ってきましたという感じ。

「いやー、助かります。あ、まだ土ついてるし、虫もいるかもしれないから気をつけて」

じゃあ、と言って去っていく先輩。これは、好意のプレゼントか、単に厄介物を押しつけられたのか。しかし、無慈悲に捨てるわけにもいかず、結局、育ちすぎた根の部分を深く切り落とし、葉だけを食べてみることにしました。

 

大きなボウルを2つ、ひとつは水を張って持ってきます。虫がついているというので、選別作業は外で。新聞紙を広げて、その上にバサバサと袋の中をひっくり返します。…なぜ、山菜をとっていて木の枝やら木の実やらが紛れ込むのでしょう。

 

かあ、かあ、かあ

遠くのほうで、カラスが鳴いていました。

西陽が影を長くして、自分の影を目で追ったさきに、向かいのおばあちゃんが掃き掃除していました。

「こんばんは」

「こんばんは」

庭先でボウル2つと新聞紙を広げて何をやっているの、と、いっそのこと聞いてくれればよかったのに。ちょうど日が沈みきるころ、選別作業も終わりました。ギョウジャニンニクは、無事、醤油漬けになりました。

 

そんな日があるのです。冬の名残をのこして、春のような、夏に踏み切れないような。だからわたしはまだ、夏物出しができません。