マスターとわたし
「ごめん、おつかいお願い」
週2ではいる居酒屋バイト。もとはお客として通っていたのを、人手が足りないとかで声をかけてもらいました。
「なんか綺麗な子はいってるじゃない!」
「いやー…そうでもないよ?」
と軽口をたたかれるくらいには、アットホームな職場です。わたしは、この発言を許していません。
すごくゆるいバイトで、入り時間や上がり時間も曖昧。「きょうはこのへんで」とか言って、手渡しでバイト代をいただきます。本当に、親戚の店を手伝っている感覚です。
「おつりがないんだよね」
洗い物をしているところで、突然の万札。
「あいちゃんの好きなもの買ってきていいから、崩してきてくれる?」
親戚のおじさんかよ。まあ、甘んじて受け取って、エプロン1枚で外にでました。
火曜日の夜。田舎の飲み屋街に人はまばらで、風はぬるくおだやかです。上着を着てこようか迷いましたが、まあ、いらないでしょう。
2、3階建ての背の低いビルの間に夜の空があって、星がちらちらと覗いていました。街灯や、行き交う車のヘッドライトに時折かき消されながら、それでも頭上で瞬く星とともに、ネオン眩しいコンビニに入ります。
120円のアイスを1本。大学時代は、飲んで終電で帰る道すがら、コンビニで買ったアイスを片手に歩くこともありましたが、こちらに引っ越してきて、ましてや最近 坂の上に居住地を変えてからというもの、めっきりなくなりました。ひさしぶりに、初夏のぬるい風を感じながら、アイスの入ったビニール袋をガサガサ鳴らして歩きます。
「買ってきました〜」
「おかえり」
戻ると、カウンターに新規のお客様。会釈して裏に引っ込み、
「1万円札崩すのに、レジのじじいにめちゃくちゃ嫌な顔されましたよ」
と恨み節を言うわたし。
「もう会わない人だから」
とマスター。
親戚のおじさんかよ。