ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

羽幌炭鉱の感動

 

札幌から車で3時間少々、北海道のひだりうえ、羽幌町の山奥に眠る『羽幌炭鉱』を訪ねました。
1935年に操業を開始し、1970年の閉山まで、往時には12000人を超える人が暮らした羽幌炭鉱。海沿いの漁師まち・羽幌町から山奥へ、車で30分ほど行くと現れる街では、かつて、鉄道、商店街、病院、水洗トイレが各室に備わった4階建てアパート、劇場やスキー場、ジャンプ台まであり、大いに賑わっていました。閉山から50年近くになる今、そこで動くものは鹿か熊くらい。

 


炭鉱とか廃墟とか、まったく興味がありませんでした。でも取材で、羽幌炭鉱の貯炭場を目にした時。曇り空、静かに雨が降る山間に突如現れたそれは、わたしの想像をはるかに超えて大きく、重厚でした。

ここで息づいた歴史を覗きたい。

好奇心は、草をかき分け、崩れたコンクリートを踏みこえるごとに増し、おしまいには、高さ40メートルの立坑を見上げて溜息をもらすほど。

 


いま、わたしが暮らす町の人口は20000人ほど。生活のひと通りが揃って、とりあえず生きるに苦労はしません。でも、在りし日この羽幌炭鉱では、山の中の限られた地域に12000人が暮らし、働き、娯楽を嗜んでいた。そう考えると、階段が錆びて登るすべを失った立坑とか、雪の重みに耐えきれず落ちた屋根の剥き出しになった梁とか、枠が残るのみとなった窓から差し込む木々の緑とか、建物は残るのにガランと人気のないアパートとか、壁の崩れた鮮やかな彩色の小学校とか…ぎゅうっと喉の奥のほうを握られるような感覚でした。溜息をつくしか、ありませんでした。
この意図せず胸をつきうごかされる衝動を「感動」というんだろうな。

 


羽幌炭鉱で得た感動は、何物にも変えがたい。
左の瞼を虫に刺されて、しばらくお岩さん状態だったけれど、それが代償なら安い安い。来年も行こうと、心に決めたのでありました。

 

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