ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

ちょっとダサいなと思ってはいるけど、中学からの宝物

集団に身を置くと、愛称を付けられることがしばしばあります。苗字や名前を短くしたり捩ったりして呼ばれるそれは、関係の距離感を可視化しているようでじんわり嬉しくなるものです。わたしにも、いくつかお決まりの愛称があって、親しく呼んでくれる人がいます。

 

「あいっちょ」

 

でも、この名前で呼んでくれるのは人生に2人だけ。前投稿の『ガマ君とカエル君』の友人と、中学生当時の部活動の顧問です。わたしは、美術部でした。

 

「部活はしてみたいけれど、運動は無理」「文化部ならできそうだけれど、吹奏楽は無理」という消去法で入った美術部。どちらかといえば美術は苦手、でも他にはいりたい部活もないし、やってみて得意になればめっけもん、なんて適当な気持ちで入部届を出しました。

 

顧問は50代の男性教諭で、美術の先生。彫刻などの立体を好み、もちろん平面も精通されていました。先生がデッサンの授業で見せた、黒の鉛筆1本でつくるやわらかな陰影が、いまも記憶に残っています。
運動部の顧問でもおかしくないような声量とサッパリした性格、ハッハと笑うと深くなる目尻の皺が好きで、部員みんな随分と懐いていました。
わたしはこの中学3年間で絵心を得たけれど、美術が好き、というよりは先生が好きだったのだと、高校で美術を選択して思いました。

 

先生はわたしのことを、『ガマ君とカエル君』の友人にならって「あいっちょ」と呼びました。
優等生になるのが得意だったわたしは、先生という存在に、気に入られることはあれどアダ名で呼ばれることはなかったので、それはどこか心をくすぐるような温めるような、心地良い響きでした。

 

先生は2年生の頃に転勤してしまったけれど、昨年母校の校長先生に赴任されました。
10年ぶりに訪ねた中学校。
目尻の皺を記憶よりさらに深くして、でも声やリズムは当時と変わらない声が呼んでくれました。

 

「お、あいっちょだ」