一人暮らしの休日
実家の冷凍庫には、いつもアイスが冷えていました。4人家族の誰かが気分で買ってきたアイスは、誰のものかだいたい見て分かります。おかあさんはお決まりのアイスバーかイチゴアイスだし、妹は高級感あるカップアイスか駄菓子感あふれる遊び心アイス。そして、おとうさんはたいてい、1本100円しないチョコアイスバーを選ぶのでした。
夕飯のあと、音をたてぬよう冷凍庫からアイスを1本ひきぬいて、そっと2階へ上がっていくおとうさん。わたしたち姉妹がまだ幼かったころには、夕飯後のアイスについておかあさんが良い顔をしなかったので、おとうさんは抜き足差し足、音をたてがちな冷凍室もそうっと開けたのでした。現在、姉妹はとうに大人で、おかあさんも「食べたいなら食べな」と言います。それでもおとうさんは、夕飯のあとそろそろとアイス片手に2階へ上がります。
「ひと口ちょうだい」
それはきっと、姉妹がおねだりするからでしょう。
たらふく食べた夕飯のあと、まるまる1本は多いけれどひと口食べたいアイスをねだって、口を開けるのです。
「…ひと口だぞ」
しぶしぶといったふうにあんぐり開いた口にアイスを傾けて、「ひと口って言ったべや!」という恨み節までがセットです。
一人暮らしの休日。
足りなくなったアルコールを買いたしに、歩いて5分のコンビニまで。
実家の冷凍庫にストックされていた、おとうさんのアイスを見つけました。安くて、大きさがあって、チョコのようなココアのようなコーヒーのようなよくわからない味がするアイスバー。いつも冷凍庫にストックがあって、勝手に食べると「おとうさんのアイスだぞ」と呟かれるアイスバー。
酔っぱらって食べたアイスバーは、やっぱりよくわからない味でした。それに1人で1本まるまる食べるには多くて、おとうさんにもらうひと口のほうが美味しいと思いながら、缶を傾けます。アイスの甘味を、なんともいえない苦みがシュワシュワ押し流していました。
一人暮らしの休日。