朝がくるまで
朝陽を逃したくなくて、明かりを消しました。
真っ暗なはずの室内で、磨りガラスの向こう、アパートの廊下の蛍光灯が目につきます。それも20分しないうちに落ちて、シンと暗い春の朝。思ったより外は暗くて、テレビの明かりだけが頼りです。
赤みを残した暗さの映画でした。飲み屋街とか朝焼けとか、さっぱり明るいわけでもないけれど暗いばかりではない、そんな映画を見ていました。
ちっち、ちっち
どのシーンでも鳥が忙しなく鳴いていて、ああ、この声はこちらの世界のものだと思い知らされます。ヒロインが眉根を寄せて涙を流しているのに、窓の外ではちっち、ちっちと喧しくて、なんだか笑ってしまいました。
たったったっと、たったったっと
雨が伝う音がします。規則的な音の数回に一回は幾分か重たい音がして、滴の伝う規則性を思います。これも、こちらの世界の音。
明け方、世界がぐるんと溶けてこちらもあちらもなくなる瞬間に安心します。テレビの向こうと、こちらの世界の境界線でたゆたううちに、映画のストーリーが加速して、気づいた時にはすっかり明るくなっているのでした。
週末は大人しくおうち時間。朝がくるまで、映画を見ます。仕事終わり、レンタルショップで映画を選んで、家について化粧を落として、ビールを片手に家事を片付けて、21時過ぎ。缶ビールのかわりに、お気に入りのグラスにワインを注いで、さあ何から見ようか。
休憩をはさみながら、だいたい5本で朝がきます。トップバッターの名作映画や、明け方のコメディはいけません。せっかく朝がくるまで見る映画ですから、テレビの向こうとこちらの世界、2つあわせて楽しむのです。借りてきたラインナップで、いかに美しいラインを組めるかが鍵となります。
4時過ぎ。
鳥の声が煩くて明かりを消した。
たったったっと
雨が伝う音。
映画の世界に沈みながら、朝陽がのぼるのを感じるのです。