ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

レンタルショップの妖怪

レンタルショップには妖怪がいます。

 

日中とは雰囲気がガラリかわる夜の淵。さあっと吹く風が冷たく頬を撫でて、上着の合わせを集めます。この町のレンタルショップはお店が並ぶ大通りから1本入りこんだ路地にあって、街灯がまばらです。看板で光る店名も、闇の深さにのまれそうになりながらチラチラ揺れています。

 

「いらっしゃいませ」

 

平日の夜、お客はわたしだけで、底抜けな店内ラジオの陽気が虚ろです。

カツカツカツ

ヒールの音もひときわ響きます。いずれの棚と棚の間にも人はいません。ただ一人の客であるわたしの動向を店員が伺っているような気がして、商品を眺めるフリしてちろりと目線をやるけれど、やっぱりそこに、人はいませんでした。

 

お目当てのDVDがあるのです。

ずっとそこにあるのを確認していて、でも見るたびに気分ではないと見過ごして、いつか観ようと心に決めていたDVD。今日は、それを借りるのです。

邦画の列、左から2つ目の棚。そこに、面を向けて置かれているのがお目当てのDVDでした。でも、その日手を伸ばした先に、思ったパッケージはありません。一様に背を向けたDVDが並んでいて、お目当ての、暗がりに目線を預ける俳優がただ1人写されたパッケージは、どこにも見当たらないのです。

 

レンタルショップには妖怪がいます。その名も「DVD隠し」。お客がお目当てのDVDを思いながら来店すると、カウンターの前、棚の間を行き交うお客や店員の目を盗んで、DVDを何処へやら隠してしまうのです。わたしは少なくとも4回はこの妖怪にやられていて、その日もやはり、そうなのでした。

諦めて、別のDVDに手を伸ばします。次はどうか、妖怪DVD隠しにあわないことを祈りながらカウンターへと向かったのでした。