ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

パイナップル

「げっ」

時計を見ると、16時15分前。急がなきゃ。

夏を目前にした夕方の空は明るくて、それでも、風向きなのか車通りなのか、夜の気配をにじませます。車を走らせて家についたころには、窓から差しこむ陽は赤色をしていました。郵便受けを確認すると、水道の検診表が1枚だけ。よかった、間に合ったと息をついたとき、チャイムがなりました。

ピンポーン

インターホンには、宅配便のお兄さん。母からの荷物です。

 

「土曜日、荷物おくるけど都合のいい時間は?」

2日前、母から電話がありました。受話器の向こうからはさわさわと女性の話し声が聞こえていて、まだ仕事中なのだとわかります。農家直営の花屋で働いている母は、切り花やアレンジフラワーを売るというより、真っ黒に日焼けしながら花の苗や土、そして農家でとれた野菜を売っています。そしてお店に入った野菜や果物を娘のわたしに送ってくれるのです。

 

「じゃあ土曜日、16時から18時で時間指定して」

とはいえ、田舎の宅配便。届け先なんて限られているから、時間指定をするとたいていその指定時刻のアタマにチャイムがなります。だから、急いで帰宅したのです。

 

「おつかれさまです」

配達のお兄さんが、よっこいしょと荷物を抱えなおしたのを、わたしは見逃しませんでした。覚悟して受け取ったそれは、やっぱり、ずっしりと重みがありました。

荷物を開けると、まず、コロコロと隙間を埋めるように敷き詰められたミカン。そして、プラム、サクランボ。トマトやキュウリ、ナスといった季節の野菜の影に、見慣れない葉が覗いていました。

 

「なんだろう」

まっすぐ細くて、鋭い葉。根元を掴んでズルリと引くと、なんと、パイナップル。

母は、農家直営の花屋で、花の苗や土、野菜を売っています。でも、いくらなんでも、パイナップルなんて売っているのでしょうか。真相を確かめるべく、お礼もかねてかけた電話は、近況報告に花が咲いて、結局きけずに切りました。