ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

チューリップの席

「よく来れたね〜!!!」

約半年ぶりの美容室。車で3時間ほどの都市にあり、大学のころからお世話になっています。すっかり伸びきった髪を整えてもらって、次の予定までの時間をつぶすべくお気に入りのカフェへ。パンケーキブームにのっていろんなお店のいろんなパンケーキを食べたけれど、大学時代暮らした近所のそのお店が最も美味しいのでした。

 

中心部から少し離れたところにあるお店は広々として、駐車場があるのが魅力です。店内には2、3組の先客。

「カウンターか、ソファのお席へどうぞ」

窓に面したカウンター席の角に、薄桃色のチューリップがいけられていました。そこへ腰かけて、メニューを開いて、

「げ、」

びっくり。記憶より300円ほど高いパンケーキ。これにセットのコーヒーをつけたら…恐ろしくなったので、計算するのをやめました。

 

大きくとられた窓は、座って目の高さまで雪で埋まっており、椿でしょうか、目の前の木は雪から生えたようになっています。その細い枝先が雪をかぶって、重くかしいでいました。雪の山のあいだから時おり人の頭が見えて、どれも帽子やフードを目深にかぶり首を垂れています。風が強くふくと、視界がまっしろに塗りかえられました。

 

でも、窓1枚隔てたこちら側ではチューリップが、陽のさすほうに向かってしゃんと咲いています。ほんのり血の色が透けるような桃色。額に近いほど瑞々しい緑で、葉は、ゆらゆらと気まぐれな曲線を描きながら花に寄り添うようについていました。

もうすぐ、春がやってくるでしょう。