ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

5年ぶりの夜

新しいことを始める前の日の夜というは、実に居心地が悪いものです。

明日に待ち受ける未知のばしょ、未知のこと、未知のひと。時計の針は無謀に進み、外はうっそりと暗く、わたしをひとりぼっちにします。うまくやれるだろうか、楽しくできるだろうか、考えても仕方のない不安が浮かんでは消えて、どうにも眠れません。それは、はじめてのアルバイト出勤日前日のような、クラス替えをしたばかりの学校へ行く前日のような、社会人になって初出勤する前日のような夜でした。

 

そう考えると、社会人として就職してから5年がたつわたしは、この夜が実に5年ぶりということになります。仕事で大きな企画を任されたときもこんな気持ちにはならなかったし、紹介された人に初めましてをしに行くときもこうはなりませんでした。慣れたばしょ、慣れたこと、慣れたひとに囲まれて、スキルを試されながら奮闘する毎日は緊張しますが、やっぱりこの夜のそれとは比べものになりません。

ドキドキ、ソワソワ、ドキドキ、ソワソワ。

できることなら、こんなにもやりようのない不安を感じたくはありません。一生、慣れたばしょ、慣れたこと、慣れたひとに囲まれて、スキルを試すことにのみ力点を置いて暮らしたいと思います。けれどやっぱり、そうだとわたしは退化してしまうでしょう。定期的に新たな刺激を与え続けるなかに、成長と進化があるのです。

 

持ち物を確認して、到着目標時刻から起床時間を逆算して、明日着る服をしっかりのばして。

5年前の自分を手繰り寄せて、初心忘るべからず、言うべきことやるべきこと心がけるべきことを反芻します。

 

実に、5年ぶりの夜でした。

ドキドキ、ソワソワ、ドキドキ、ソワソワ。

できることなら味わいたくない夜でした。

でもわたしはこの夜を超えて、成長と進化を手に入れるのです。