ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

夜を惜しむように

高校生の取材をうけました。部活動の一環で、方針としてアポ取りから取材まで学生が自ら行うらしく、拙い敬語でのメールや緊張の面持ちの打ち合わせに、こちらがソワソワと落ち着かない気持ちになりました。いっそのこと一声かけてやろうかとも思いました。アポをとるときはまず企画の趣旨をきちんと説明して…とか、打合せのときは日時の候補を3つくらいあげて…とか。けれどきっと、わたしにもこういう時期があったのです。彼らを見守ることにしました。

 

ようやく、取材当日。仕事終わりの夜、学校にお邪魔することになりました。学校の駐車場に着くと、すでに生徒玄関の蛍光灯は落ちていて、しんとした校内を学生の先導のもとに歩きました。廊下から覗く教室はどこも真っ暗で、けれどそこに並べられた机の多さから、昼間は賑やかな声が響いていることが想像できます。通された部屋で大人しく待っていると、じきに、取材が始まりました。

 

事前に考えていたのでしょう、定型文を読み上げるような取材。けれど、そんな取材じゃ内容に深みが出ないことを、わたしは知っています。だからこればかりは堪らず、自分で答えた回答を広げるように、エピソードを交えたり学生に逆質問するように話を振ったりしました。するとそのうちに、学生の目の奥に、キラキラ輝くものが現れる気がしました。

「その理由というのは…」

「まったく別の話になってしまうんですが…」

そうして続く取材に、気がつけば時刻は21時。学生にとって、こんな時間まで校内に残っていることもないでしょう。彼らの瞳は、一向に輝くまま。

 

それはまるで、夜を惜しむように。沈黙を遮るように投げかけられる質問に、答えます。きっと彼らは、わたしが話した内容なんてこれっぽっちも覚えていないでしょう。夜の学校にこうして残って、仲間と時間を過ごした、その経験こそが彼らのなかに強く刻まれているのでしょう。

きっと、わたしにもこういう時期があったのです。