ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

わからない

わたしが北海道の左上で暮らすことを選んだ理由のひとつは、隣人との距離が近いことでした。ご近所付き合いということではなくて、たとえば、居酒屋のカウンターに座ったとき。

「おねえちゃん、どこから来たの?」

とマスターに声をかけられ、隣に座る人に

「札幌から!?なんでわざわざ!」

と大袈裟に驚かれて。それで、気付いたら居酒屋一軒、全員で飲んでる、みたいな、人と人との距離の近さが好きでした。もちろんそれを鬱陶しいと感じるひともいるでしょうけれども、わたしは、毎朝知らないひとと肩を触れ合わせながら乗る満員電車や、ぶつからないように肩を交わすスクランブル交差点より、そういう人と人との交わりのほうが好ましく思えたのです。それは、都会より田舎にあると思いました。だから、田舎に暮らすことを決めました。

 

でも、今では、そんなこともないかもしれないと思うのです。

 

先日、久しぶりに札幌へ行きました。人口195.2万人。わたしが暮らす北海道の左上なんて人口2万人にも満たないので、比べ物にならないくらい都会です。すすきのの明かりと風を肌で感じながら夜の街を歩いて、友だちの案内でバーを2、3件。どこも初めてのお店でしたが、友だちが顔馴染みなこともあって、スタッフさんや隣に座るひとと色々な話をしました。

どこから来たの?

いつまでいるの?

なにが好きなの?

なんで好きなの?

わたしが大学時代にハマった映画の話をしたら、その映画を上映していたミニシアターに通ってらっしゃる方がいて、ミニシアターやら映画やらの話になったり。こういう話を、この距離でできる場所があることを、この街で過ごしていた大学時代のわたしは知りませんでした。

 

あのときのわたしが、この街の、この夜の空気を知っていたら、いまとちがう選択をしていたのでしょうか。北海道の左上に暮らしていたでしょうか。わかりません。いまとなっては、何もわかりません。