ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

クリスマスソング

クリスマスソングを好きな人間がいるなんて、思いませんでした。

この時期、街を賑わせるクリスマスソング。街頭有線もショップBGMもテレビもラジオも、シャンシャンシャンシャン、リンリンリンリン。楽しさしかないと誇示するような、幸福そのものみたいな主張の激しい音楽を、あっちでもこっちでもお構いなしに流されて、果たしてみんな、本当に好きで聞いているのかと甚だ疑問でした。

でも、しょうがないでしょう。この時期のために作られた音楽をこの時期に聞かなければ、いつ聞くのだという話です。この世に生み落とされたものはすべからく、人の目に触れる権利があります。そう考えて諦めました。

 

彼女の家で作業をしていた時。

わたしも彼女も別方向を向いて黙々と作業して、部屋には、パソコンのタイプ音と彼女の手元で再生されるプレイリストだけ。洋楽とか、メロウなジャパニーズポップスとか、彼女の選曲は心地良くて好きです。でも、その日は違いました。

シャンシャンシャンシャン

リンリンリンリン

軽快なクリスマスソング・プレイリスト。洋楽も邦楽もごちゃまぜで、ごちゃまぜのくせに鈴の音とハイテンションだけは共通していて。

「この時期の東京駅前が最高。イルミネーションが綺麗で、道ゆく人の足取りが軽くて。1年で1番好きだなあ」

彼女の目はキラキラと輝いて、その瞼の裏には、まるで彼女の言う「東京駅前のイルミネーション」を映しているようでした。わたしには「東京駅前のイルミネーション」の記憶はないけれど、彼女がそうと言うのならそうなのだろうと、心がちっとも動かない納得をしました。

 

世間一般のそういう「素敵なクリスマスの思い出」によって、クリスマスソングは待ち望まれているのでした。果たしてわたしにも、クリスマスソングを心躍らせながら聞く日がやってくるのでしょうか。こんなことを言っているうちは、やってこない気がします。